『海外農林業情報 No.85』

海外農林業情報 No.85 (2018年6月14日

・米国トランプ政権による世界的な貿易摩擦の激化
・米国農務省による農産物需給見通し
・刊行物のご案内

米国トランプ政権による世界的な貿易摩擦の激化

トランプ米政権の「アメリカ・ファースト」に基づく各国への通商面での圧力がエスカレートしています。
トランプ大統領は、5月23日、安全保障を理由に自動車の輸入関税を引き上げる検討に入ると発表しました。鉄鋼・アルミにも発動した米国貿易拡大法232条を適用し、商務省が調査に入ります。現在2.5%の乗用車の関税に25%上乗せする案が浮上しているようです。検討の開始から発動までにはかなりの時間がかかり、またWTOルール違反のおそれも強く、実際発動することには高いハードルがあると思われますが、二国間での「ディール」の武器として、難航するNAFTA(北米自由貿易協定)再交渉において、カナダ、メキシコから譲歩を引き出し、また日本との二国間FTA交渉につなげる思惑があるとみられます。

中国との関係では、去る3月に、トランプ大統領が知的所有権の侵害を理由に中国からの一定の輸入品に制裁関税を課する考えを表明し、中国がこれに対抗して大豆やトウモロコシ等を含む報復関税リストを4月に公表するという状況にあったところで、5月17-18日にワシントンで第2回貿易協議が開かれました。その結果、中国が米国からの農産品とエネルギー資源の輸入を大幅に増やすことで合意し、その具体策を協議する間は、双方が追加関税の発動を保留することにし、ひとまず休戦と見受けられました。ところが、5月29日に、トランプ政権は一転して、中国の知的所有権侵害に対する制裁関税の最終案を6月15日までに発表し、その後速やかに発動すると表明しました。

また、本誌の前号においてご紹介しましたように、安全保障を理由に3月に発動した鉄鋼、アルミ製品の追加関税措置については、カナダ、メキシコ、EUに対しては通商交渉での譲歩を引き出すため5月末までの期限付きで適用を猶予していましたが、5月31日、米国は猶予を打ち切り、6月1日から追加関税を発動すると発表しました。これを受けて、EU、カナダおよびメキシコは、農産品を含む報復関税を発動すると表明するとともに、WTO提訴の方針を示しました。

我が国とは、4月の日米首脳会談で担当閣僚間での新たな協議枠組みに合意していますので、この協議のなかで米側が前述の自動車関税を取引材料に、二国間FTAの要求を強めてくる可能性があります。我が国としては、先頃署名されたTPP11協定の批准手続を進めながら、TPPへの米国の復帰を訴えていくものとみられます。

こうした状況の中で、6月8-9日、カナダのシャルルボアでG7サミットが開催されました。各国首脳は米国が6ヵ国に課した鉄鋼・アルミニウム関税を強く批判しましたが、トランプ米大統領は「巨額の貿易赤字は受け入れられない」と譲りませんでした。それでも、「ルールに基づく国際秩序」を推進し、「自由、公平で相互利益になる貿易と投資は(中略)成長と雇用創出の主要原動力」だと確認するとともに、「関税障壁、非関税障壁の削減に向けて努力する」との合意文書(コミュニケ)が発表されました。ところが、トランプ米大統領は、米朝首脳会議が開かれるシンガポールへ向かう機内で、このコミュニケへの承認の撤回を指示したとツイートし、反故にしてしまいました。トランプ氏は、議長国カナダを「不正直だ」と非難し、諸外国が「莫大な関税」を米国にかけようとしていると述べています。米国と他の国との貿易面での対立は深刻化しています。カナダとメキシコは、早くTPPを発足させ、米国農業界からの反発を期待する動きとなるのではないかとも思われます。

文責:藤岡 典夫

<参考リンク>
米、車関税25%上げ検討(5/24、日本経済新聞)
米、対中制裁の発動用意(5/30、日本経済新聞)
米、鉄鋼関税きょう発動(6/1、日本経済新聞)
President Donald J. Trump Approves Section 232 Tariff Modifications(5/31、ホワイトハウス)
EU、米をWTO提訴(6/2、日本経済新聞)
G7 貿易問題で対立(6/9、日本経済新聞)

米国農務省による農産物需給見通し

米国農務省(USDA)は6月12日、世界の農産物需給見通しを発表しました。このうち、小麦、粗粒穀物、コメ、油糧作物の見通しは次の通りです。

・小麦
2018/19年度の米国の小麦生産量は、冬小麦の生産見通しが先月の報告よりも増加し、全体として、前年比8600万ブッシェル増の18億2700万ブッシェルと予想されています。しかしながら、主産地の北西部での天候状況が悪いと伝えられており、現在収穫期にある冬小麦、生育期の春小麦への影響が懸念されています。
 世界全体では、インドと米国での生産増をロシア、EU、メキシコでの生産減が上回ることから、2018/19年度の供給見通しは先月より120万トン減少し、前年を若干上回る10億170万トンとなっています。このうちロシアの生産減は、冬小麦の生産地における春季の乾燥に加え、春小麦の生産地における多雨に伴う作付面積の減少によるものであり、EUの生産減は、ドイツとポーランドの冬小麦生産地における春季の乾燥によるものと報告されています。

・粗粒穀物
2018/19年度は、米国においてトウモロコシのエタノール生産向け利用が増えると見込まれる一方、エタノール生産による副産物の増加とトウモロコシ価格の上昇の見通しから、飼料その他の利用は減少すると予想されています。先月の見通しよりも供給が減り消費が増えているため、期末在庫も減っており、これが現実となれば2013/14年以降で最も低い水準に達します。
 2018/19年度の世界の粗粒穀物生産量は、前年を1900万トン下回る15億5700万トンと予想されています。このうちロシアではトウモロコシの作付面積減少が報告され、先月よりも生産量が下方修正されています。ブラジルでも、2017/18年度のトウモロコシ生産が減少したことから、二期作目の単収見通しが下方修正されています。

・コメ
2018/19年度の米国のコメに関しては、期首在庫と輸入が先月の予想より増えており、供給見通しも400万cwt(1 cwt=約45kg)の増加を示しています。供給が増えたことで、国内その他の利用も上方修正されています。
 世界全体では、2018/19年のコメ供給見通しは先月より210万トン減少しているものの、前年を上回る6億3100万トンと見込まれています。先月からの下方修正は主に、中国において、消費量等の減少に起因する収穫面積と生産量の減少がみられるためです。世界のコメ消費は先月の見通しより60万トン減少していますが、供給減がそれを上回ることから、世界の期末在庫は150万トン下方修正され、1億4300万トンとなっています。

・油糧種子
米国では大豆の作付けが例年以上に進み、生育状況は良好と報告されています。2018/19年度は、先月の見通しよりも大豆ミールの国内利用と輸出が増えているため、圧搾も増加し、期首在庫が下方修正されています。
 世界全体では、主にブラジルの生産量が上方修正されたことにより、2018/19年度の大豆生産は先月比70万トン増の3億5520万トンとなっています。世界の期末在庫は、米国とアルゼンチンでの在庫減をブラジルでの在庫増が相殺し、全体として先月比30万トン増の8700万トンと見込まれています。

以上のように、今年度の生産はおおむね順調と見込まれていますが、今後の見通しは、7月末から8月初めにかけての米国中西部の天候に左右されることになると思われます。

文責:森 麻衣子

<参考リンク>
World Agricultural Supply and Demand Estimates (6/12、USDA)
大豆国際価格が下落(6/8、日本経済新聞)
小麦、半年で3割強上昇(6/14、日本経済新聞)

 

刊行物のご案内

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―包摂的な農村変革に向けた食料システムの強化

JAICAF・2018年3月発行・22×16cm・26ページ

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本年版は、開発途上国で進行中の経済構造と農村の変革に焦点を当て、これらの変革が多数の小規模農家にもたらす機会と課題を分析しています。本書では特に、持続可能かつ包摂的な農村変革を支えるアプローチとして、都市や町とその周辺の農村を結び付け、農産工業とインフラ開発を一体化させる「アグロテリトリアル・アプローチ」を提唱しています。

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