『海外農林業情報 No.86』

海外農林業情報 No.86 (2018年7月13日

 

  

 

 

国連食糧農業機関(FAO)は7月10日、世界の農産物の需給見通し『Food Outlook』を発表しました。このうち、小麦、粗粒穀物、コメ、油糧種子については次の通りとなっています。穀物全体としては、2018年は特にトウモロコシの生産減が予想されることから、穀物の総生産量も減少が見込まれ、2018/19年度の供給見通しも芳しくないものとなっています。これに対し、穀物の消費量は、需要の伸びに応じて増加が予想されるため、生産が予想どおりであれば、2018/19年度の世界在庫は5年ぶりに減少すると見込まれます。

小麦
2018/19年度の世界の小麦生産量は、前年度比2.7%減の7億3,610万トンと予想されます。これは、ウクライナ等の独立国家共同体(CIS)の主要生産国で天候不良による収量減が予想されており、これが北米および南米での生産増を上回るためです。

小麦の利用に関しては、食用向けと工業向けの利用が増加することから、過去最高となる7億4,100万トンに達すると予想されます。

消費の増加と生産量の減少により、小麦の世界在庫は、2019年度末には期首の水準から3.3%減少すると見込まれます。特に、主要輸出国であるロシア、EU、米国の在庫率は、現在の20.8%から、この5年間で最も低い16.8%へと落ち込むことが予想されます。

粗粒穀物
2018年度の世界の粗粒穀物生産量は、3.7%の減少が予想されています。このうちトウモロコシについては、二大生産国である米国と中国に加え、アルゼンチン、ブラジル、EU、南アフリカでも大幅な減少が予想されることから、世界全体では4.2%の減少見込みとなっています。

2018/19年度の粗粒穀物の消費量は、飼料向けと工業向けが引き続き増加することから、過去最高となる1.3%の増加が予想されます。特に中国とラテンアメリカでトウモコロシの家畜飼料向け需要が高まるため、粗粒穀物の飼料向け消費は、世界全体で1.4%の増加が予想されます。また、特に中国と米国において、トウモロコシの燃料用エタノールおよびスターチ向け利用が増加するため、粗粒穀物全体の工業利用は世界全体で3%の増加が予想されます。

2018/19年度の世界の粗粒穀物在庫は、5年ぶりに期首在庫より14.4%減少となる見込みです。特にトウモロコシは減少幅が大きく、その大部分を中国が占めますが、主要輸出国であるアルゼンチン、ブラジル、米国でも減少が予想され、世界全体で5000万トン(16%)の在庫減が予想されています。これにより、在庫率も減少が見込まれることから、2018/19年度のトウモロコシ市場は緊迫することが示唆されています。

コメ
北半球における夏季のコメの生育状況を踏まえると、2018年度の世界のコメ生産量は、過去最高水準となる5億1,140万トン(前年比1.4%増)に達すると予想されます。この増加分は、気候が安定し、生産者の利幅が大きいアジア諸国に集中すると見込まれます。アフリカと米国でも生産の回復が見込まれますが、その他の国々では、天候不順により生産者の利益も限定的なため、生産が縮小する可能性が高くなっています。

2018/19年度の世界のコメ消費は、食用向けが前年度比で1.0%増加し、5億950万トンに達すると予想されます。消費量が生産見込みを下回るため、2018/19年度の繰り越し在庫は1.5%増の1億7,370万トンに達する見込みです。増加分の多くは中国が占めますが、インド、インドネシア、フィリピン、米国でも在庫増が予想されています。

油糧種子
2017/18年度の世界の油糧種子生産は、多くの生産国で天候不良により単収が下がっているため、前年度よりも減少することが予想されます。特に油/油かすの主要供給国であるアルゼンチンでは、大豆生産が異常気象の影響を受けています。

2018/19年度の暫定予測では、世界の油糧作物生産はさらに増加し、油/油かすの生産を記録的な水準に押し上げると見られます。現在の消費傾向が変わらなければ、油糧作物の供給は需要を十分に満たすと予想されます。

なお、ここ数週間で、米国と中国による貿易戦争により、世界の油糧作物市場は不確実性が高まっています。両国の貿易措置が油糧種子/製品にどのような影響を及ぼすかは不透明ですが、米国からの大豆輸入に対する中国の報復関税の発動が、大豆/大豆かすの国際価格を引き下げており、大豆以外の油糧作物価格にも影響が波及しています。

文責:森 麻衣子

<参考リンク>
Food Outlook, July 2018(FAO、英語)

 

 

農業はアフガニスタン経済の基盤であり、その再生は単に食料安全保障だけではなく、同国の健全な復興、発展にとって鍵となるものです。しかし、約30年にわたる戦乱の影響により、農業関連インフラや農業支援サービスは荒廃してしまいました。そこに、周期的に起こる大規模干ばつが追い打ちをかけ、深刻な食糧危機や社会経済状況の不安定化などを引き起こしています。さらに、農業の振興を担う農民、農業研究者や技術者の多くも失われてしまいました。農業技術の開発と普及、それを支える試験研究機関、普及組織や農民組織の強化は、農業生産力の回復と増強による農村の回復、国家経済の安定化を実現する基盤となるものであり、これらの再建が喫緊の課題です。

アフガニスタン農業灌漑牧畜省(Ministry of Agriculture, Irrigation and Livestock;MAIL)は、こうした中、組織体制の強化や人材の育成に継続して取り組んでいますが、未だ、その農業支援サービスの提供能力は不十分であり、農業・農村セクターは多くの栽培技術上および営農上の問題を抱えたままです。

そこで、MAILの農業支援サービスの提供能力向上のため、2012年、JICA技術協力プロジェクト「農業灌漑牧畜省組織体制強化プロジェクト(CDIS)」が開始されました。CDISは、(1)政策立案、プログラム策定・実施管理能力の向上を図る<成果1>、(2)灌漑局による灌漑農業計画策定・実施能力の向上を図る<成果2>、(3)農業研究局および普及局による、地域ニーズおよび開発ポテンシャルに応じた適正栽培技術および営農手法の開発普及を一体的に実施する能力の向上を図る<成果3>、(4)MAIL地方局による農家向け農業支援サービスの提供能力向上を図る<成果4>の4つの成果によって構成されています。

JAICAFでは、上記4成果のうち、<成果3>を担当し、2013年3月?2017年5月まで、4年余りにわたって技術協力を行いました。<成果3>は、2011年までJAICAFが受託して実施したJICAアフガニスタン国国立農業試験場再建計画(NARP)を引き継いだものですが、より普及に重きを置いて、農家が受け入れ可能な、農家・地域ニーズに沿った農業技術を開発、普及することを目指したものです。

第1年次と第2年次は、研究総局と普及総局をパートナーとして「研究と普及の連携強化」を主眼とした活動を実施し、第3年次以降は「研究部門の強化」にシフトして活動しました。

 本号から2号にわたって、CDIS成果3の事業を紹介します。

本号では、プロジェクト活動のうち「研究部門の強化」について、次号では「研究と普及の連携強化」の他、悪化の一途をたどった治安状況のもと苦心したプロジェクト運営について、ご紹介する予定です。

 
研究部門の強化

 特定分野の研究技術の指導だけでなく、研究の流れそのものも指導対象とし、研究力の底上げを図りました。具体的には、(1)個々の研究者による研究テーマ設定、実行および取り纏め、(2)部としての研究取り纏めと年間研究成果検討会(Annual Review Meeting:ARM)での発表、(3)ARM発表のフィードバック、(4)中央試験場と地方試験場の連携による研究の実施といった活動を通じて、研究実施能力および研究管理能力の向上、ARMの自律的効果的実施、ならびに国内外の研究ネットワークの強化を目指しました。

・人材育成
試験研究者には、“試験研究実施能力”“試験研究管理能力”“試験研究成果発信能力”の3つの能力が必要であり、人材の育成に当たっては、これら能力の向上を目指さなくてはなりません。

プロジェクト開始当初、MAIL研究総局の研究者は、その能力に大きなばらつきを抱えていました。部によっては、収集の目的も不明な野帳のデータが、ただ羅列されただけの報告書も散見されていました。NARPによって1年間の研究成果を検討するARMが導入されたものの、活動報告に終始し、地方試験場などは不足する機材リストの発表で終わることもありました。

育成する人材像として、普及までを視野に入れて、ニーズに沿った課題を設定、研究計画を立案し、研究計画に従って研究を行い、研究成果を発信する人材とそれを管理する人材としました。育成に当たっては、特定分野の研究機材の扱い方からデータ分析まで、また、研究計画の立案から成果の取り纏めと発表までの一連を指導しました。

研究機材の扱い方やデータ分析については、本邦での技術研修を中心として技術指導を行い、研究の流れと管理については、ARMを核とした活動を行わせ、それを本邦、現地および第三国研修によってフォローしました。特に、ARMでは、研究段階に応じて3種類のフォーマットを作成し、それに沿って、計画立案、経過報告、成果報告を行わせましたが、フォーマットの項目に沿って作成していくと、自ずと、研究テーマ設定の背景(ニーズ分析)、期待される成果、成果に至るアプローチ(研究方法)、研究結果と残された課題・制約要因について考察することになるものとしました。このフォーマットに準じた形式の月報を提出させ、それを添削することによって、常に考察を行う体制を整えました。

こうした技術指導の結果、13ある研究部局のほとんどが、まとまりのある報告書を作成できる状態となりました。ARMでの発表において、野帳の羅列はもはや見られることはなく、地方の試験場についても研究報告がなされるようになりました。特に、試験研究計画策定能力、実験計画・データシート作成能力、データ収集・解析能力、研究レポート作成・研究成果発信能力は大きく向上しました。ARMでの研究発表を、研究段階別に5段階で評価する仕組みを導入したことも大きな変化でした。 

本邦研修受講生は、帰国後、普及員対象の研修を開催ARM2016


・研究組織の強化
試験研究機関は、MAILの方針と要請に沿って、安定的な農業生産の実現、農業生産性の向上、農産物の品質の維持・改善等を実現する技術を開発・提供する機関です。こうした役割を果たすためには、政策に沿った研究計画の策定、予算獲得と配分・運営・管理および報告、他局との連携や交渉、研究管理業務(各部門間の連携調整、各部門の研究管理と成果発表、部員の役割分担や管理・指導、試験研究の実施)、といった一連の業務が組織的に実行されなければなりません。

プロジェクトでは、中でも、研究管理業務が効果的かつ効率的に実施されるようになることを目標としました。具体的には、試験研究計画の策定段階から試験研究成果の発信段階までが一連のサイクルで行われること、つまり、ARMを核として、研究実施・管理にPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルが導入されることを目指しました。

ARMはPDCAの「C」に位置付けられるものであり、ARMにおいて、研究成果を評価し、評価結果を共有し、次の研究にフィードバックすることが重要です。ARM開催自体が目的化されることなく、ARM実施プロセスが研究総局内に構築されることを最重要視して活動を重ねました。ARMの開催をルーティン化し、ARMでの発表を評価・比較検討しやすいようにフォーマットを整え、評価チームのもとで評価基準や様式も整備しました。当初は、予算確保もままならない中、ほぼ丸一年遅れの実施になることもあり、研究成果の評価も行われていませんでしたが、最終年度には年内開催と評価の実施まで実現しました。プロジェクトが終了した後も、ARMが開催されたとのニュースが現地から届いています。

(次号へ続く)

文責:西山 亜希代

 

国別研究シリーズ No.82
ラオスの農業と新たな農業政策
横井 誠一[著]

発展著しい東南アジアにあって、ASEAN唯一の内陸国ラオス。お隣ミャンマーとともに熱い視線を注がれるこの国は、経済発展により、農業を取り巻く実情も大きく変わりつつあります。
本書では、ラオス農業の概況とともに、今まさに実行中の新しい中長期計画をご紹介しています。
著者は、国際機関での経験を活かし、2014年までラオス政府で農業政策アドバイザーを務めた横井誠一氏。開発途上国支援の専門家がラオスの農林業協力におけるニーズと問題点を俯瞰します。
ラオス農業の調査入門書として、開発コンサルタントはもちろん、これからラオスを学ぶすべての方に広く役立つ一冊です。

JAICAF・2018年3月発行・A5判・133p・ISBN 978-4-90856-34-8
定価:1080円(本体1000円+税)※郵送をご希望の場合、別途送料がかかります

詳細・購入のお申し込みはこちら

 

『海外農林業情報』のバックナンバーは、こちらから。

刊行物一覧へは、こちらから。