『海外農林業情報 No.87』

海外農林業情報 No.87 (2018年7月31日

 

  

  
米国トランプ政権の内向きの貿易政策が、「貿易戦争」と言う言葉さえ誘発する状況となっています。当初は、貿易収支改善のために、相手国から譲歩を得るためではないかと言われていましたが、交渉のめどがつかないままの発動となっているようで、世界経済への影響が懸念されるようになっています。

トランプ政権は、米国ファーストを掲げ、貿易政策においては、先ず、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの離脱を通告し、NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉での強硬姿勢を示すことから始めました。次に、国家安全保障を理由に、米通商拡大法232条に基づき4月6日から鉄鋼・アルミ製品に25%または10%の追加関税を導入しました。カナダ、メキシコに対してはNAFTAの進展、またEUに対しては協議の結果を待つとして、当初は適用除外としましたが、はかばかしい進展がないとして、それぞれ6月と5月から適用に踏み切りました。

これに対して中国とEUは、米国の「安全保障」との主張に疑義を呈しセーフガードであるとして、WTO提訴の方針を示すとともに、報復関税を導入するとしました。特に中国は、4月6日同日から、米国の課税商品の額に相当する豚肉、ワインなどを含む中国への輸入に関し、25%等同様の追加関税を掛け始めました。

さらに、米国は4月4日に、中国に対し通商法第301条に基づき知的所有権侵害に対する制裁関税として産業用ロボット、電子部品等500億ドル相当の輸入品について追加関税を掛ける旨表明していました。7月6日に、米国はこのうち340億ドル相当分の品目に対する追加関税(+25%)措置を発動しました。

これに対して、中国は、4月に米国からの輸入について同額のものに報復関税を掛ける旨表明していましたが、7月6日の米国の発動に応じて、同額の米国産品(大豆,牛豚,コメ等)に対して+25%の報復関税を発動しました。双方は、残りの160億ドル分についても、近々発動予定としております。この中国側の動きに対して、トランプ大統領は、さらにこれへの報復として、2000億ドル分の中国からの輸入に追加関税を掛けることを検討するとし、7月10日、米国USTRは、追加関税(+10%)リスト案を公表しました。今後パブリックコメントを経て,実際の発動は9月以降となる見通しです。この関税リスト案には、野菜・果実類や水産品など、農林水産品も多数含まれています。中国側もこれに対抗した措置をとるとしています。これが発動されますと、米国の中国からの輸入は年間5000億ドルですので、約半分が加算関税の対象になります。中国の米国からの輸入は年間1300億ドルですので、大口のトウモロコシを含めすべての品目に渡ることが懸念され、さらに金額的に不足する部分に関して、追加的措置に走る可能性もあります。両者とも、まったく話し合いの姿勢を見せておらず、エスカレート気味です。

このような米国の保護主義的な動きに対抗するかのように、7月1日に東京で開催されたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)協定閣僚会合では、7月のタイでの交渉官会合を経て、8月末のシンガポール閣僚会合で本年末の成果パッケージを想定して集中的に議論することが合意されております。7月17日から7月27日までタイ・バンコクにおいて開催された首席交渉官会合では、関税引き下げやルール整備について議論が行われ、「税関手続・貿易円滑化」と「政府調達」の2分野で実質合意し、これまでに合意した中小企業と経済技術協力の2分野と合わせてこれで4分野となりました。RCEPは、2012年11月のプノンペンでのASEAN関連首脳会議の際に交渉立ち上げ宣言が行われ、ASEAN10ヵ国とそのFTAパートナー6ヵ国(日、韓、中、印、豪、NZ)で交渉されることとなったものです。物品、サービス、投資の分野にわたり、事項としては、関税、原産地規則、検疫衛生(SPS)、サービス自由化、金融・電気通信サービス規則、人の移動、投資自由化、独占禁止、知的財産、電子商取引、政府調達、経済技術協力、紛争解決等幅広い分野を取り扱うこととなっておりますが、ほとんどがTPPに含まれているもので、むしろ中国、インド等問題の抱えている国が多く、より緩いものとなると考えられ、我が国としては、TPP以上の対応を迫られることはないと思われます。しかしながら、農業分野では、特別な関心国から特定の個別の要求があるかもしれませんが、特に大きな譲歩を求められることは予測されておりません。
TPPについては、米国の離脱を受けて、残る11ヵ国での交渉を経て、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)として合意されましたが、我が国では、6月13日に国会で締結が承認され、7月6日に寄託国のニュージーランドに批准手続きの完了を通知しました。すでにメキシコとシンガポールが批准を終え、残り3ヵ国の批准で発効することとなっており、来年初めに発効する公算が大きくなりました。この情勢を受けて、タイ、コロンビア等が新規参加の意向を示しているようです。また、英国も、2019年3月のEU離脱後に参加を目指すと表明しています。7月18、19日に、署名後初めての11ヵ国による首席交渉官会合が神奈川県箱根町で開催され、協定発効後すぐに新規の加盟交渉を始める方針で一致しました。わが国としても、米国の復帰を求めるとともに、さらなる参加国の増加を求めていくこととなると思われます。

 他方、7月17日に、すでに合意されていた日・EU経済連携協定(EPA)が、安倍総理とトゥスク欧州理事会議長及びユンケルEU委員長との間で署名され、来年発効を目指して、双方で批准手続きに入ることとなりました。具体的内容は、すでに本紙の73号と79号でお知らせしたとおり、ほぼTPPを踏まえたものとなっていますが、関税に関しては、EU側99%、日本側94%を撤廃することとなっており、特にEU側の自動車関税が0(現行10%)に、日本側のワインも0になり、チーズに関してEUに対して関税割当枠を設けることが目立った点となっています。
 このように、日本がリードする形で貿易の自由化の方向が進められていることが目立ちます。

<参考リンク>
Statement By U.S. Trade Representative Robert Lighthizer on Section 301 Action (USTR、7月10日付)
米中 報復の泥沼 米、追加関税6031品目22兆円(日本経済新聞、7月12日付)
経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定の署名(外務省、7月17日) 
日欧EPA 来年発効へ 両首脳署名 最大級の自由貿易圏(日本経済新聞、7月18日付)
RCEP、2分野で合意 貿易円滑化と政府調達(日本経済新聞、7月28日付)


文責 藤岡 典夫

 


農業はアフガニスタン経済の基盤であり、その再生は単に食料安全保障だけではなく、同国の健全な復興、発展にとって鍵となるものです。長年の戦乱によって農業が荒廃する中、農業技術の開発と普及、それを支える試験研究機関、普及組織や農民組織の強化が求められています。

JAICAFでは、2013年4月-2017年5月までの4年余りにわたって、JICA技術協力プロジェクト「農業灌漑牧畜省組織体制強化プロジェクト(CDIS)」に関わってきました。CDISは、(1)政策立案、プログラム策定・実施管理能力の向上を図る<成果1>、(2)灌漑局による灌漑農業計画策定・実施能力の向上を図る<成果2>、(3)農業研究局および普及局による、地域ニーズおよび開発ポテンシャルに応じた適正栽培技術および営農手法の開発普及を一体的に実施する能力の向上を図る<成果3>、(4)MAIL地方局による農家向け農業支援サービスの提供能力向上を図る<成果4>の4つの成果によって構成されていましたが、JAICAFは<成果3>を担当し、第1年次と第2年次は「研究と普及の連携強化」を主眼とした活動を、第3年次以降は「研究部門の強化」に焦点を当てた活動を実施しました。

「研究部門の強化」の活動を紹介した前号に続き、本号では「研究と普及の連携強化」の活動と、悪化の一途をたどった治安状況のもと苦心したプロジェクト運営について紹介します。

研究と普及の連携強化
 プロジェクトは、研究、普及、農家による三者一体的な活動が現実のものとなるよう支援し、かつMAILの研究総局と普及総局が連携して、地域ニーズおよび開発ポテンシャルに応じた適正栽培技術および営農手法の開発と普及を一体的に実施する能力の向上を支援することを基本方針として、活動してきました。
 特に第1年次および第2年次においては、普及総局と研究総局を対象として、本邦研修やカブールでの現地研修を精力的に行いました。本邦研修で作成されたアクションプランに沿って、帰国後に研修員が農民研修を実施したり、展示圃場での展示を行ったりと、具体的な成果につながりました。
 第3年次以降は、研究部門の活動に集中したものの、プロジェクト期間を通じて、対象地域における展示圃場の設置を支援しました。この結果、2016年11月末には、ミルバチャコット郡でのFLRC(Farmer Learning Resource Center)の建設が完了し、JICAからMAILに引き渡されるとともに、FLRCの運営管理がMAILの責任の下で行われることとなりました。第4年次には、FLRCの利用計画策定に関する支援業務を行い、2017年3月には利用計画の最終案が作成されました。利用計画策定においては、研究総局に対し、研究部門としての役割および具体的な活動内容を検討するよう促し、普及総局と合同で現地を訪問し現地調査を実施するよう支援しました。多くの現場普及員にとって研究部門との接触がない中、利用計画を策定する中で研究と普及の連携が見られたことは、今後の明るい材料となりました。
 さらに、第1年次に実施したインベントリー調査、研究員および普及員を対象としたワークショップならびに農民研修を通じて把握した農家ニーズを基に、農家向け普及教材3点と普及員向けマニュアル8点を作成しました。それらはMAILモニタリング評価局の審査を受け、うち7点はMAILから承認を得て、公式な教材となっています。残り4点は必要に応じた修正を行い、承認手続きをとるよう、普及総局に託しました。これら教材やマニュアルはMAIL内で配布されたほか、FLRCにも整備され、今後、ミルバチャコット郡での普及活動において活用されていきます。
 また、ARMの開催においても、常に、普及に向けた道筋を想定しながらの研究とその成果発表に重点を置いたことは、研究部門が普及部門と連携するための土台となりました。

農家研修の実施完成したFLRC



プロジェクト運営
 アフガニスタンの治安情勢は、プロジェクト期間中、急激に悪化し、第2年次からは日本人専門家の派遣が厳しく制限されました。第3年次以降は、チームリーダーが年に2回程度、単独で渡航するにとどまり、渡航に当たっても、現地の治安情勢に活動が大きく左右され、ほとんど現地活動ができない状況に陥ることもありました。そのため、E-mail、スカイプ、第三国での会議といった遠隔指導によってプロジェクトを運営せざるを得ない状況が最後まで続きました。遠隔指導による限定された場での指導は伝わる情報が著しく減じられ、効率性は大きく妨げられることから、本邦研修も積極的に組み入れ、本邦に留学している研究人材も対象に含めて互いに教えあう機会を作るなど、工夫をしながら技術指導を実施しました。
さらに、MAILの組織改編による局長の長期不在や人事異動は、活動を大きく妨げ、進捗の遅れにもつながりました。
 技術指導は、対面で継続的に行うことによって、成果を挙げるものです。対面指導ができない中、カウンターパート(C/P)2名に加え、フォーカルポイント(F/P)として6名の研究者を指名し、現地にJoint Counterpart Meeting(JCPM)やJoint Demo-Farm Meeting(JDFM)を立ち上げて、彼らを中心に、現地活動を実施するよう工夫を凝らしました。現地人材をプロジェクト運営の要に置いて活動を展開したことは、一連の活動を有機的に連携させることに繋がりました。活動そのものについても、ARMを中心に据え、常に普及と研究の連携を促したことは、成果発現に大きく貢献しました。 現地に日本人専門家が入れないという困難な状況下でのプロジェクト実施でしたが、さまざまな手段を有機的につなげ、切れ目のない活動に取り組んだ結果、研究総局および普及総局による、地域ニーズおよび開発ポテンシャルに応じた適正栽培技術および営農手法の開発普及を一体的に実施する能力の向上という目標を、ある程度達成できたものと考えます。すべての活動には、計画、実行、評価、フィードバックがあります。プロジェクトでは、開始当初からPDCAを導入し、一貫して各活動に共通する基礎としてきました。これも、活動を進める上で、大きなプラスの作用をもたらしました。

 

                 F/Pが研究人材を指導



文責:西山 亜希代


 

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