『海外農林業情報 No.89』

海外農林業情報 No.89 (2018年9月28日


 

トランプ政権の米国ファースト政策により、米国対世界各国(地域)の貿易摩擦がエスカレートしています。

米中

米国は、9月24日、2000億ドルの中国産品に対する追加関税(+10%)を発動しました。

既に中国に対しては, 知的財産侵害を理由とする301条関連で7月に第1弾の340億ドル、8月に第2弾の160億ドル分に追加関税が課されており,今回の第3弾で計2500億ドルが対象となり、対中全輸入額5000億ドルの半分に追加関税がかかることになりました。来年1月からは、関税の上乗せ幅を25%に引き上げることも予定しています。これに対し中国も,同日,報復として米国産品600億ドルに対して追加関税を発動しました。これにより、これまで発動済みの分と合わせ対米輸入額全体約1500億ドルの7割超に追加関税がかかることになりました。

中国による報復関税で、米国内ではこれまでにも悪影響を受ける産業界や農家から不満が出ており、さらに今回は多くの消費財が報復の対象になっていることから消費者からの不満がでることも予想されますが、トランプ政権は、大豆農家等に対して支援策を出し、また今回は関税上乗せ幅を10%に押さえるなどの配慮をしつつ、中国に対しては手を緩めない姿勢を鮮明にしています。

・NAFTA再交渉

NAFTA再交渉は、トランプ大統領の通商政策の最優先事項として今から1年以上前の昨年8月に3ヵ国で協議を開始しましたが難航し、今年5月以降休止状態となっていました。そこで米国は「2国間」で打開しようとして、まずメキシコに対し強硬姿勢で交渉し、8月下旬に合意に達しました。合意内容は、関税ゼロで域内へ輸出できる条件の見直しで、1つは域内で調達する自動車部品の割合について従来の62.5%を75%に引き上げること、2つは完成車の40?50%の部品を時給16ドル以上の地域で生産するという賃金条項の導入であり、いずれも米国での生産が増える仕掛けとなっています。さらに、乗用車の輸入量が一定水準を超えた場合に米国が最大25%の関税を適用できるとの数量規制でも合意したようです。

メキシコとの合意を受け、米国とカナダとの協議が8月28日から始まりました。焦点は乳製品です。カナダは乳製品について、生産調整、生産者価格の設定、関税割当と枠外への高関税などを組み合わせた「供給管理制度」による保護政策をとっています。米国はこれを問題視し、自動車分野を取引材料にして市場開放を迫っているようです。しかしカナダにとって酪農は重要産業で、協議は難航しているようです。NAFTA再交渉の決着期限については、米国は11月末に退任するメキシコ現大統領との間での署名を目指して貿易関連法に基づき新協定の詳細を公表する9月末としていますが、カナダ側は、月内にこだわらないとしています。

・米EU

米国は、対EUに関しても、7月25日に米EU会談を行い、トランプ大統領とユンケル委員長は,共同プレス声明において,EUが米国産大豆の輸入を拡大することで合意したと発表しました。トランプ大統領は,自動車以外の工業品の関税撤廃・非関税障壁撤廃・補助金廃止に取り組むこと、EUがLNGの輸入を拡大すること、WTOの改革に取り組むこと、鉄鋼・アルミ関税とその報復関税を解決すること等に合意したとも述べています。

・日米

日本との関係ですが、9月25日、米国において第2回日米貿易協議(FFR)が開催されました。FFRとは、「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議」(Talks for Free, Fair and Reciprocal Trade Deals)のことです。日本側は茂木敏光経済財政・再生担当相、米国側はライトハイザー通商代表が出席しました。この協議は、本年4月の日米首脳会談で設置が決まったもので、8月9、10日にワシントンで開催された初会合では、二国間FTAを求める米国に対し、日本は米国のTPP復帰を促し、平行線に終わっていました。

今回の協議の終了後、茂木大臣は「両国の貿易を促進する方策、枠組みについて基本的な認識は一致した」としつつ「個別項目は首脳会談で合意した上で発表したい」と述べました。続いて26日に日米首脳会談が開催され、共同声明が発表されました。

今回の協議・会議の結果は、政府の説明によれば以下のとおりです。

(1)日米両国は、「日米物品貿易協定(TAG)」について交渉を開始することに合意した。
(2)両国が交渉を行うに当たっては、日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限である、との、これまで繰り返し述べてきた立場を、米側も尊重(respect)することが共同声明に明記された。我が国としては、最終的にも、これに反する合意はしない旨を明確に伝えた。
(3)日米は今後信頼関係に基づき議論を行うこととし、交渉が行われている間、本合意の精神に反する行動を取らないことが確認され、交渉中は自動車に関する通商拡大法232条に基づく制裁関税を課されることはないとの理解が首脳間及び閣僚間で確認された。
(4)日米の二国間交渉をスタートするに当たっても、我が国はTPP11の早期発効を目指すという立場に変わりはなく、その点も米国には明確に伝えた。

以上のように日本側は、米側の強い要請を踏まえ農産物の関税を含む二国間交渉は避けられないと判断しTPPの合意水準を上限にしてこれに応じる一方、国内経済への影響が大きい自動車の追加関税を当面回避した形です。今後は、この物品貿易協定の交渉開始が焦点となります。

なお、交渉される物品貿易協定は、FTAではなく物品のみ(サービス分野、投資、TRIP、TRIM等のルール分野を含まない)の協定です。

 ・RCEP

8月31日、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)の第6回閣僚会合が、シンガポールで開催されました。RCEPは、ASEAN10ヵ国(インドネシア・シンガポール・タイ・フィリピン・ブルネイ・ベトナム・マレーシア・ミャンマー・カンボジア・ラオス)に、日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インドの6ヵ国が加わった、合計16ヵ国からなる経済連携です。日本政府からは世耕弘成経済産業大臣等の関係者が出席しました。今回の会合では、RCEPの大まかな目標を記した「成果パッケージ」を採択し、年内の実質的な妥結を目指す共同声明が発表されました。

米国トランプ政権が強引に、いわば独善的に保護貿易政策を推し進める中で、本誌 ですでにご紹介しました通り、我が国は、いわゆるTPP11協定(CPTPP)を今年3月8日に、日EUEPAを7月17日に署名にこぎつけました。これらに並ぶ大型のEPAとして、RCEP交渉の進展が注目されます。

 <参考リンク>
【米中】
USTR Finalizes Tariffs on $200 Billion of Chinese Imports in Response to China’s Unfair Trade Practices(USTRプレスリリース、9/18)

対中追加関税、輸入の半分 米、24日に第3弾 消費財に波及(日本経済新聞、9/19)
貿易戦争 危険水域に 米中、関税第3弾発動(日本経済新聞、9/25)

【NAFTA】
車部材 域内調達75%に NAFTA 米・メキシコ合意(日本経済新聞、8/28)
米、車輸入に数量規制 メキシコと合意(日本経済新聞、8/31)
NAFTA再交渉 膠着(日本経済新聞、9/24)

【米EU】
Remarks by President Trump and President Juncker of the European Commission in Joint Press Statements(The White House、7/25)

【日米】
米国との新たな通商協議(いわゆるFFR) 結果概要(内閣官房TPP等政府対策本部)
日米共同声明(内閣官房TPP等政府対策本部)
物品貿易協定の交渉開始 日米首脳会談 車関税は当面回避(日本経済新聞、9/27)
Readout of President Donald J. Trump’s Meeting with Prime Minister Shinzo Abe of Japan(The White House、9/26)

【RCEP】
RCEP 年内妥結めざす(日本経済新聞、9/1)


文責:藤岡 典夫

 

 

東アフリカの稲作に対する日本の支援は、長年、栽培技術の改善と生産量の向上に焦点を当ててきました。しかしながら、近年ではコメの収穫後処理に対しても目を向け始め、とくにコメの品質向上に注目しつつあります。

収穫後の処理において、品質に影響を与えるものとして、中でも石抜きは重要な工程です。石抜き作業の多くは手作業ですが、コメの中に含まれる石は小さく、石によっては白色であるため見分けにくく、完全に取り除くことは困難です。機械化することで白い小さな石でも取り除くことができます。課題解決には機械化、つまり、石抜き機の導入が必要と考えられます。

今回は石抜き機導入を実施した事業にJAICAFが参加した事例をご紹介します。

事業の対象国はウガンダ国です。同国では、経済成長に合わせて、コメの需要が拡大しています。そのため、コメ倍増を目指す「アフリカ稲作のための共同体(CARD)」に参加し、「国家稲作開発戦略(NRDS)」を策定するなどして、近年、コメの生産を大きく増大させてきました。それにともない精米所も急激に数を増やしていますが、その多くは小・中規模の精米所とみられます。こうした小・中規模の精米所は、石抜き作業を手作業に頼っているため石が除去しきれず、低品質かつ低価格のコメしか生産できないという課題を抱えています。一方で、継続的な経済成長に伴い、品質の良いコメを求める層は増加しています。

そのような状況の下、JICAが企業と連携して進める民間連携事業のひとつである案件化調査として、(株)細川製作所は「ウガンダ国ポストハーベストにおける所得向上を目的とした石抜き機導入による付加価値向上のための案件化調査」を2016年度から2017年度にかけて実施しました。JAICAFは細川製作所から依頼を受けて、進出の可能性調査を行いました。

当時のウガンダの大手スーパーでは、コメは綺麗にパッキングされて、ウガンダ国産の場合、5500ウガンダシリング/kg(約165円)前後で販売されていました。このような商品は砕米が少なく、また、そのほとんどのパッケージに、石が含まれないことを示す“Stone Free”のプリントがありました。一方、市場や軒先で販売されているコメは高価なものであっても3000-3700ウガンダシリング(約90-111円)に過ぎませんでした。このようなコメは手作業で選別されており(写真1)、ゴミと大きな石は取り除かれているものの、小さな石は完全には除去されずに残ってしまいます。この石は炊いた白米にも残るため、現地の食事では時々石を歯で噛み砕き、非常に不快な思いをすることもしばしばでした。

本調査事業では、細川製作所が試作した石抜き機の現地モデル「とる蔵」を用いて、ウガンダにおける大規模農業展示会に出展し、デモンストレーションを行いました。その結果、精米業者だけでなく、農家や学生、ドナー等、多くの参加者が石抜き機に興味を示しました。さらに、展示会で強い関心を持った企業家等を対象に、石抜き機の長期貸与を行い、現場で実際に石抜き機を利用してもらいました。貸与先は5ヵ所、それぞれ小規模コメ流通業者と精米所経営を行う農民団体を選出しました。貸与先の企業家等は、石抜き機を実際に活用し、どのように利益を得たのかを記録しました(写真2)。

 

写真1 手作業で石を除去する写真2 石抜き機現地モデル

小規模コメ流通業者のA氏は元々、精米を購入して、石を抜いたものをパッキングして地元スーパーに販売する商売をしていました。石抜き機械を貸与した期間中は、2400-3500ウガンダシリング/kgで購入した精米を、石抜き後、3800-4200ウガンダシリング/kgで販売しました。手作業では1日に100kgの処理がせいぜいでしたが、石抜き機を入れることで1日200-300kg/日と3倍近くの商品を生産することができるようになり、その分収入も増えました。本来であれば、試作直後の石抜き機の処理能力は180kg/時間 ありましたが(注1)、コメを仕入れる資金が不足していたり、販売先が限られたりすることから、300kg程度までしか取扱量を増やすことができず、商売の拡大が制限されてしまったのが残念でした。

B精米所では、精米を代行して精米料を徴収するビジネスを行っていましたが、石抜き機を入れることで、石抜き機賃として50ウガンダシリング/kgを上乗せして徴収するようになりました。

また、どの貸与先でも、石抜き機の導入によって作業人員または作業時間が減少したことが確認でき、労働生産性の改善につながりました。

これらの結果から、石抜きしたコメの場合、精米に800ウガンダシリング上乗せして販売できるとして、石抜き機現地モデルを1日5時間稼働させれば、日額64万ウガンダシリング(約1万9200円)の利益が出ることになります。1ヵ月も稼働させれば、石抜き機のコスト(約24万円)を含めて簡単に採算が合うことが判明しました(注2)。また、手作業による石抜き作業は主に女性の仕事であったことから、石抜き機の導入は女性の長時間労働の緩和にも貢献することが分かりました。

上記の活動によって、コメの品質向上を求めるウガンダにおいて、石抜き機の需要は十分にあることが明らかになりました。小石が含まれていないStone Freeのコメを求める人は増えており、石抜き機で石を除去したコメに付加価値を付けて販売できる環境が整いつつあります。また、労働生産性の向上も見逃せないメリットです。コメの生産は拡大を続けており、今後ますます、良いコメをたくさん流通させる必要が出てくるでしょう。その時、現地に適応した石抜き機は、大きな力を発揮すると思われます。

本調査事業は終了しましたが、細川製作所が作成した現地モデル「とる蔵」の導入を希望する潜在的な流通業者や精米所は多数存在すると考えられ、石抜き機そのものの市場が期待できます。また、ウガンダに限らず、コメを生産する周辺国、タンザニアやケニア等でも同様の環境と市場が想定できることから、品質と労働生産性を向上させるものとして、石抜き機を含む収穫後処理の機械化に対するニーズは、今後も高まるといえるでしょう。

注1: 本調査事業中に改良を重ねて処理能力を370kg/時間に向上することができました。
注2: 改良した新型モデルを利用すれば、たった半月の稼働で採算が合うことになります。

 <参考文献>
JICA ウガンダ国 ポストハーベストにおける所得向上を目的とした石抜き機導入による付加価値向上のための案件化調査業務完了報告書(先行公表版)

 文責:西野 俊一郎 

 

 

当協会では、ラオスに焦点を当てて、下記のセミナーを開催します。

日時: 2018年10月24日(水) 14時から(13時半受付開始) 

場所: 国際機関日本アセアンセンター ホール(東京都港区新橋6-17-19 新御成門ビル 1階)

主な内容:
「ラオス農業の概要と新たな農業政策」 横井誠一(元ラオス農業省政策顧問JICA専門家/(公財)果実協会情報部長) 「ラオス南部での農業生産の実際」 新田直人(元JICA営農専門家/(公社)国際農林業協働協会技術参与) 「ラオス農業投資の概要」 磯島 大(Lao Japan Gateway代表)

 ※ 講演終了後に参加者との名刺交換会を予定 

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世界の食料安全保障と栄養の現状 2017年報告
―平和と食料安全保障に向けたレジリエンスの構築

国連食糧農業機関(FAO)が毎年発行する旗艦報告書の日本語版。2030年までの飢餓終結など17の国際目標を掲げる「持続可能な開発目標」の達成に向けた、食料安全保障や栄養の改善のための取組みの進捗状況を報告しています。

ここ10年以上着実に減少してきた世界の栄養不足人口は、2016年に再び増加に転じました。本書は、世界各地で頻発する紛争や気候変動の影響がその背景にあると分析しています。

本報告書は、これまでFAOと国際農業開発基金(IFAD)、国連世界食糧計画(WFP)が共同で発行してきた報告書『世界の食料不安の現状』の後継版です。本年から国連児童基金(UNICEF)と世界保健機関(WHO)も作成に参加し、食料安全保障と栄養の問題が、より包括的な視点から論じられています。

JAICAF・2018年3月発行・A4判・128p・ISBN 978-4-908563-38-6 (print)

詳細・全文PDFはこちら。冊子をご希望の方は、JAICAFまでお問い合わせください。

 

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