『海外農林業情報 No.90』

海外農林業情報 No.90 (2018年10月29日



 JAICAFは、2017年度、農林水産省から助成を得て、ミャンマーにおいて黒ゴマを対象とした技術指導事業を実施しました。
 以下にご紹介します。


ミャンマーのゴマ

ミャンマーは、国民の過半数が農村部で生活し、その多くが農業に従事していますが、近代的な技術が十分に導入されているとはいえず、同国GDPにおける農業セクターの貢献は約30%、輸出総額の約20%にとどまっています。農業における生産性を向上させ、農民の所得向上を実現することが、農業セクターの課題です。

国家成長政策の中でも農業セクターは最も重要なセクターの1つと位置付けられ、経済成長の要とされています。農業畜産灌漑省は、ミャンマーにとって特に重要な10作物として、イネ、トウモロコシ、落花生、ゴマ、ヒマワリ、ケツルアズキ(Black gram)、リョクトウ(Green Gram)、キマメ(Pigeon pea)、サトウキビ、綿とし、生産性と品質の向上を目指しています。

中でもゴマはミャンマーの食生活に欠かせない作物であり、薬味、菓子、調理油などに使われ、搾油後の粕は家畜飼料として利用されるほか、中国、日本、韓国など主に東アジア諸国へ輸出されています。

近年の健康志向を背景に、ゴマの需要は増加していると言われます。最大のゴマ輸入国となった中国が、年々その輸入量を伸ばしている他、中近東からの需要も大きく、国内のゴマ消費のほぼ全量を輸入に頼っている日本にとって、安定したゴマの供給は大きな課題です。日本にとってミャンマーは、ゴマの輸入先国として、ブルキナファソ、ナイジェリア、タンザニアに次いで4位ですが(2017年)、アフリカ諸国は白ゴマが中心であり、その中で、ミャンマー産の食用黒ゴマは、特に重要な作物の一つです。


事業概要

 ゴマは、ミャンマーにとっても欠かすことのできない食材でありながら、他の主要作物に比べて、栽培技術の向上という点において後れをとっています。ゴマは比較的乾燥に強い上、肥沃度の低い土地でも栽培することができ、灌水技術や施肥技術の向上普及に積極的に取り組まれてきたとは言い難い状況です。

また、ゴマは、早期に成熟したさく果が収穫前に開裂して種子がこぼれやすくなるため、ハーベスター等の機械導入が難しく、そのほとんどが小規模農家によって手作業で栽培されています。小農が生産を支えるゴマ栽培では、農薬管理を徹底することも難しく、日本に輸入されるゴマからは、たびたび残留農薬基準違反が報告されています。ミャンマーから日本に輸入されているゴマにおいても、2014年4月から2017年1月の間に、12件のイミダクロプリドの残留違反が摘発されました 。ゴマを加害する害虫の代表的なものはアブラムシ類、スズメガ類、カメムシ類、コガネムシ類、ヤガ類などで、防除に際して最も重要な時期は生育初期段階ですが、ミャンマーにおいて適切な時期に適切な方法で農薬が使用されているのかを、明らかにする必要がありました。

こうした中、JAICAFでは、2017年度、農林水産省補助事業「平成29年度ベトナム及びミャンマーにおける農業生産性・品質向上のための技術指導事業(ミャンマー)」において、ミャンマーの黒ゴマを対象とすることを提案し、採択されました。

事業では、ミャンマーのゴマ農家の生産力を向上させ、わが国の企業が求める品質のゴマ供給に貢献し、農家の所得向上に資するため、

・対象地域のゴマ生産における課題が明確になる
・対象地域の土壌管理状況が明確になり、適正な土壌管理方法が理解される
・対象地域の害虫発生状況にあった、効果的な害虫防除方法が理解される
・適正な農薬使用の重要性が理解される

ことを目的として、以下を実施しました。

(1)対象地域のゴマ生産状況、作付け体系、土壌管理状況などの把握と、適切な土壌管理方法の指導
(2)対象地域の害虫発生状況および害虫防除方法の把握と、より効果的な害虫防除方法の指導
(3)対象地域の農薬使用状況の把握と、適正な農薬使用方法の指導


対象地域

ミャンマーは、丘陵山岳地域、中央乾燥地域、デルタ地域、沿岸地域の4つの気象地域に分けられ、ゴマは主に中央乾燥地域で栽培されています。中央乾燥地域では、そのほかに落花生、リョクトウ、キマメおよびイネの栽培が盛んです。ゴマは前述のとおり機械化が難しく、収量や脱穀などに人件費がかかる反面、利益率は大きく、中央乾燥地域の農家にとって重要な換金作物です。

中央乾燥地域は、図1に示す通り、マンダレー地域、マグウェ地域、サガイン地域の3地域からなり、これら地域で、ミャンマーのゴマ生産量の約90%を占めています。

本事業では、ゴマの栽培状況やアクセスのしやすさなどを考慮して、対象地域をマグウェ地域としました。

 

図1 ミャンマー国地図 出典: Australian National University

 

専門家の派遣

事業では、事前調査にて対象地域の農業事情やゴマ農家の営農実態を確認した上で、?土壌改良、?害虫、?農薬の専門家を派遣しました。現地農民や農業関係者に対して、圃場で直接指導するとともに、指導内容をマニュアルに纏め、関係者を対象としたワークショップを開催しました。

 

表1 派遣専門家

専門家指導機関指導内容
鈴木 正昭 (土壌改良/栽培) 6月21日-6月30日 7月24日-8月8日 (26日間) 検土杖、簡易pHメーター、簡易ECメーター、簡易土壌養分測定キットを使用し、土壌の簡易診断法を普及員にOJTにて指導。 また、土壌診断の結果に基づく施肥法をワークショップにて指導・普及。
藤家 梓 (害虫) 6月21日-6月30日 7月24日-8月8日 (26日間) 害虫および天敵の発生実態(種類・発生密度・被害等)の調査方法を普及員にOJTにて指導。 また、調査結果に基づき、害虫の防除方法および適正な農薬使用をワークショップにて指導・普及。
桑原 雅彦 (農薬) 6月21日-6月30日 (10日間) 農薬の使用実態を調査し、調査結果に基づき、適正農薬の適正使用を指導。

 

2 マニュアルの内容と対象 

分野内容対象者
土壌施肥管理マグウェのゴマにおける土壌管理方法農家・農業普及員
病害虫防除・農薬マグウェのゴマにおける害虫・天敵および防除方法農業普及員・研究者

 

土壌マニュアルは、普及員が農家を指導する際に使用する簡単なカードと、その解説をセットとしました。病害虫防除・農薬のマニュアルは、害虫の発生等について、さらに調査しながら防除方法を普及する必要があるため、普及員や研究者用のマニュアルとして作成しました。両マニュアルとも、事業報告書の添付資料として、ウェブサイトで公開しています(文末の参考リンク参照)。

 

土壌診断法を指導砂質土壌の断面


ワークショップでは、中核農家、農業普及員36名を対象にアンケート調査を実施し、講義内容の理解度や、学んだ知識を現場で生かすことができるかを確認しました。回答率は100%で、土壌と施肥管理の課題を理解した人が全体の92%、より良いゴマ生産のための土壌管理アプローチを理解した人が92%、ゴマ栽培の問題となっている病害虫を理解した人が97%、提案された害虫管理方法を理解した人が86%と、講義の内容はほぼ参加者に理解されていました。また、すべての参加者が、学んだ知識を現場で活用したい、他の農家や同僚などにも広めたい、と回答しています。

事業のその後

一方、本事業を実施する中で、黒ゴマ生産が抱える他の課題についても明らかになりました。特に、遊離脂肪酸やカビ臭等の低品質は、サプライチェーン関係者の多くから問題視されており、現状の詳細な調査および対策が肝要です。酸価値の上昇は、収穫したゴマを圃場に野積みして追熟・乾燥させる農家が多く、積み上げている間に湿度や温度が高くなることが、原因ではないかと考えられています。味の低下を招くだけでなく、輸出の際に日本側の要件を満たせない可能性もあることから、安定的なゴマの供給に影響を与える深刻な問題です。まずは、乾燥方法と酸価値の上昇に因果関係があるのか、農業局等と連携して確認し、科学的根拠に基づいてより良いポストハーベスト処理方法を検討・指導する必要があります。

また、害虫の発生などについては年毎の調査が必要不可欠であり、今後も、事業で指導した調査法を役立て、農業局および農業研究局が連携して、知見の収集に継続的に努めなければなりません。2017年度は、栽培前期および中期の害虫発生を普及員等とともに調査しましたが、乾燥時期や栽培初期あるいは後期の発生については、未だ不明です。乾燥時期に発生する害虫の対策のため、収穫前後に農薬を使用してしまう農家もいるとの噂もあり、発生状況の確認は必須です。また、ヨコバイ類の一種によって媒介されるファイトプラズマ病の蔓延は酷く、ゴマの生産に大きな打撃を与えています。多くの圃場で発生が見られ、中には半分近くの株が罹患した圃場も見受けられました。害虫の発生状況に応じて防除法を検討、確立することが急がれます。

これらの課題に対応するため、2018年度も引き続きマグウェ地域において技術指導を実施しています。2018年度は乾燥期に焦点を当て、乾燥方法の違いが、酸価値やカビの発生、害虫の発生に与える影響を、普及員や農家と一緒に確認し、より良い乾燥方法を目指しています。

 

野積みされたゴマファイトプラズマに侵されたゴマ

 

ミャンマーのゴマは、日本をはじめ東アジア諸国からの需要も高く、換金作物として農家所得の向上に資することから、ミャンマー政府、各国の民間企業、支援団体が注目する作物です。JAICAFでも、関係機関と情報共有を密に行いながら、現場の普及員や農家とともに取り組んでいます。各支援団体の活動が相乗効果を生み出し、農家の所得が向上し、結果としてわが国の食産業の発展にもつながるよう、事業を推進しています。

(文責:西山 亜希代)

<参考リンク>
ベトナム及びミャンマーにおける農業生産性・品質向上のための技術指導事業(ミャンマー)事業報告書 平成29年度(JAICAF)

 


去る10月24日(水)、日本アセアンセンター(東京都港区)において「経済成長著しいラオスでの農業の現状と政策、ならびに投資セミナー」を開催しました(JAICAF主催、日本アセアンセンターおよびJICA後援)。

東南アジアの最貧国であり、内陸国ゆえに開発の進んでいないラオスですが、メコン川沿いの熱帯から亜熱帯の北部山岳地帯まで多様な生態系が広がっています。そうした多様性がゆえに農業開発の潜在性が高く、各方面から注目を集めています。

こうしたことから、本セミナーでは、JICA専門家としてラオス農業省の政策顧問を務めた横井誠一氏、ラオスと日本とのビジネス連携を目指すLao-Japan Gatewayを起ち上げた磯島大氏より、ラオスの農業政策や投資の展望についてお話をいただきました。また、南部サワナケート県において、JICA技術協力プロジェクトの営農専門家として従事し、農家への指導を行った当協会の新田技術参与より、現地での体験を踏まえたラオス農業の実情をご紹介しました。

 当日の発表資料を当協会ウェブサイトに掲載しておりますので、ぜひご活用ください。

<参考リンク>
「経済成長著しいラオスでの農業の現状と政策、ならびに投資セミナー」発表資料(JAICAF)

 


お米や稲に関するちょっとした情報、豆知識を「お米のはなし」として、ウェブ連載を始めました。

JAICAFは、国際的な農林業の課題に関して、専門技術集団としてその解決への活動を展開しています。アフリカでもお米の需要は急増しており、増産・品質向上は喫緊の課題です。これに対してJAICAFはアフリカを中心に多くの国の稲作振興・増産に協力しています。

今後ますます重要性を増すお米に関わる情報や知見を、JAICAFの稲育種専門家がひとつずつ「お米のはなし」にまとめ、逐次掲載します。

一般のお米読本や稲の専門書とは少し趣を異にしますが、私たちは専門的な観点から、お米や稲の話題を一つずつ、最新のニュースなども交えて掲載する予定です。

お楽しみいただければ幸いです。 

(第1号冒頭より)1. 米と稲 日本では、田んぼに育つ「稲」、その稲の穂に実る「籾」、籾の中の「米」、その米を炊いて食べる「飯(ご飯)」、など同じ稲由来でも、対象や状況に応じてその名が異なります。 また、それぞれの名前には意味があり、私たちは普段それを特に意識することなく、ごく自然に使っています。 しかし、この「稲」も「米」もご「飯」も、英語で言えば、全て”Rice”です。 日本ではいろいろな呼び名があるのに、なぜ英語では一語なのでしょうか。……

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