『海外農林業情報 No.91』

海外農林業情報 No.91 (2018年11月12日

 

 

 

米国の中間選挙が終わり、野党の民主党が議会下院の多数派となった結果、トランプ政権の進めようとする政策の実現が不透明になったといわれていますが、中国に対するトランプ政権の強硬姿勢については民主党にも賛同する意見が多く、この面では変わることはないといわれています。 

トランプ政権の下で、米国は、自国産業保護的な貿易政策を取っており、まず、1974年通商法232条(国家安全保障上の制限)に基づき、鉄鋼・アルミ製品に関して、それぞれ25%と10%の追加関税を課すことから始めました。輸出規制措置を飲んだ韓国等には適用しないこととしていますが、日本、中国等は、課税対象国となっています。これに対し、中国は、米国からの豚肉、ワイン等に追加関税を課することで対抗しました。さらに、米国は、技術移転、知的財産及びイノベーションに関する中国政府の行為、政策または慣行が、通商法301条の不公正な措置にあたるとして、広い範囲の商品に追加関税措置を発動しました。米中間の貿易額は、中国から米国への輸出額5,065億ドル、米国から中国への輸出額1,308億ドル、米側の赤字額3,757億ドルで、米国の貿易赤字額全体の46.3%を占めています。また、米中の貿易総額は、米国の貿易総額の16.3%、中国の貿易総額の14.3%を占め、それぞれ最大の貿易相手となっています(いずれも2017年ベース)。

通商法301条の措置については、中国との協議で回避のための合意ができず、米国は、7月6日から航空宇宙、情報通信技術等の中国からの輸入品818品目、340億ドル相当のものに25%の追加関税の賦課を開始し、これに対し、中国側も、直ちに大豆等の農産物、水産物、自動車等545品目、340億ドル相当の米国からの輸入品に25%の追加関税の賦課を開始しました。8月23日には、米側は、新たに集積回路、化学品、モーター等279品目、160億ドル分を25%追加関税の対象品目に加え、これに対して、中国側も、直ちに160億ドル分の輸入品目を加え、さらには、9月24日には、米側が5,745品目、2000億ドル分の中国からの輸入品目に10%の関税を付加することとし、即日、中国側も5,207品目、600億ドル分の輸入品目に5から10%の追加関税を賦課することとなり、ついに米国の中国からの輸入金額5,065億ドルの約半分の品目が、中国側の米国からの輸入金額1,308億ドルの内の1,100億ドルもの品目が追加関税の対象となりました。さらに、米側は、来年1月1日からは、この10%の関税を25%に引き上げることとしており、トランプ大統領は、残りの2,670億ドル相当分にも追加関税を課する用意があるとしています。これに対して、中国側は、残りの品目が約200億ドル相当分と少ないのですが、「報復を実施せざるを得ない」と表明しており、ますますエスカレートする様相です。米国も中国も、ほとんどの品目についてWTO上の譲許(バインド)をしており、これに反することになります。米側の言い分は、「知的財産権保護、投資協定違反であるから、それに対する報復である」とのことですが、WTO上の協議を経ずに、一方的に認定していることには問題があり、そもそも米国の通商法301条はWTO協定に反するおそれがあると言われています。さらに、中国側も、WTO上の協議を申し入れたのに米側が応じないからといって、その損害額の認定も受けないまま、譲許関税を引き上げたことは、ルールに反していると言われています。このように、両大国が、力任せにWTOルールを無視していることは、WTOそのものだけでなく、国際貿易ルール全体にも、力のルールが蔓延してくるのではという懸念を生じさせています。

米国内では、トランプ大統領はいろいろな批判にさらされていますが、この中国との貿易戦争については、米議会、ジャーナリズムをはじめ、国内での批判はあまり出ていないようです。最近、米国内では中国の抬頭に警戒感があり、その反映ではないかと言われています。特に、中国が南シナ海で、フィリピンとの係争に関する国際司法裁判所の判決をも無視して、一方的な措置を取り続け、さらに建国100年にあたる2050年には、軍事的に米国を上回ることを目標に掲げたことから、米国民の間に強い警戒感が生じていると言われています。経済的にも、一方的な貿易黒字を重ねてドル余剰を作り、それで米国債を大量に保有しているとの批判があり、最近の貿易問題に関して、その放出を示唆したことが一層警戒感を惹起したようです。また、技術面でも、知的所有権を軽視したり、米国の技術を一方的に窃取しているとの批判もあるようです。WTOをはじめ、種々の国際協定の中で、中国を開発途上国として優遇してきたことがこのような状況をもたらしたとの意見もあるようです。このような米国内の対中批判の状況、中国側の現政権の大国意識からして、この貿易戦争は、長引くのではないかと言われています。

この貿易摩擦においても、中国の米国からの農産物輸入が大きな位置を占めています。今のところ、中国側も、肉類、穀物、油糧種子に高関税を課しているだけですが、この状況がさらに長引き、悪化することも考えていると思われ、農産物貿易体制を変換してくることが考えられます。中国は、これまで、飼料用に使われるトウモロコシは、畜産産地への輸送距離を考慮し、むしろ自給を目指して国内生産を奨励しながら、搾油原料である大豆は、消費地との関係で沿岸部に搾油工場を配し、ある程度輸入に頼る方向を取っておりましたが、当面はカナダからの菜種と南米からの大豆にシフトしつつ、国内での油糧種子の生産奨励に向かっていくものと思われます。肉類の輸入については、鶏肉はブラジル等へ、牛肉はオーストラリアへ、豚肉はメキシコ、カナダへシフトしていくのではないかと考えられます。これらは、日本への供給国であり、競合が厳しくなっていく事が考えられます。他方、中国市場を失う米国の穀物、大豆、肉類生産者からは日本市場が注目され、今後の貿易交渉への圧力が強まるのではないかと思われます。

また、トランプ政権は、NAFTA再交渉に関して、まずメキシコと合意し、9月30日にはそれをカナダに合意させ、NAFTAに代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が誕生することとなりました。自動車に関し、原産地比率を62.5%から75%に引き上げ、低賃金(時給16ドル未満)による製造割合を45%未満とする等の条件のほか、もし米国が通商法232条による自動車関税の追加課税を導入する場合、乗用車260万台分(ほぼ現在の輸入数量)は適用除外とするというものです。また、懸案だった米加間の農産物に関しては、米国は乳製品、砂糖について、カナダは乳製品、鶏肉、鶏卵について、無税の関税割当枠を設定し、カナダは乳製品の供給管理制度の生産者価格を見直すこととなっています。また、新たに、「非市場経済国とのFTAを交渉する場合、事前通知を要することとし、当該FTA発効後は、その他の国はこの協定を終了させることができる」条項が入ったことが注目されます。これは、中国、ロシアを念頭に置いて、FTAをけん制したものと考えられます。さらに、貿易額不均衡問題に関しては、6年以内のレビュー条項が入れられています(従来は発効後16年で終了。延長可能となっていました)。

日米の貿易問題に関しては、米側が2国間FTAを求めてきたのに対し、日本側はTPPへの米国の回帰を主張しておりましたが、9月23,24日の首脳会談で、FTAではなく物品に限定した日米物品貿易協定(TAG: Trade Agreement on Goods)について交渉を開始することに合意され、25,26日の閣僚間の通商協議で、次のような内容の共同声明が発せられました。

(1)日米物品貿易協定の交渉を開始する。また、早期に結果を生じうる重要分野についても交渉を開始し、その他の貿易・投資事項もその後に交渉を行う。
(2)交渉にあたっては、両国は次の他方の立場を尊重する(Respect)。
- 日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること。
- 米国としては自動車について、市場アクセスの交渉結果が米国の自動車産業の製造及び雇用の増加をめざすものであること。
(3)両国は、WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに、知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業による不公正な貿易慣行に対処するため、日米、日米欧三極を通じて緊密に作業して行く。
(4)協議が行われている間、本共同声明の精神に反する行動はとらない。また、他の関税関連問題の早期解決に努める。
具体的には、(2)で、日本の農林水産物の譲許はTPPの枠内とすることとされていますが、米国からの数量枠などの問題は残っていると思われます。米国の自動車に関しては、このような表現で、NAFTAのような方式が考えられます。さらに、(4)で、自動車に関し、日本に対し通商法232条の適用はしないこと、現在の鉄鋼、アルミの加算関税の早期解決が合意されたと解釈できるようです。また、(3)は、対中国条項と見られ、米国の中国問題への並々ならぬ姿勢が感じられます。NAFTAの第三国FTAの条項と考え合わせると、RCEP(東アジア地域連携協定、Regional Comprehensive Economic Partnership)との関連も考えられます。

米国貿易促進権限法(TPA: Trade Promotion Authority)では、政府は交渉開始の90日前までに議会に通知する必要があり、10月16日に 日米間で交渉に入ることを通知しました。したがって、交渉開始は来年1月中ごろ以降になるようです。他方、10月31日には、オーストラリアのTPP批准通告がなされ、TPPは、6か国以上の批准が確実となり、それから60日、12月30日にはこれが発効することとなり、日米貿易交渉は、TPP発効を背景に行われることとなるようです。さらに、RCEPについても、12月一杯の合意を目指して、11月には閣僚会議を予定しており、日米交渉の際には、これも合意に至っている可能性もあります。中国が、米国の措置に対抗する意向もあって、早期に合意に至ることを模索していると言われています。RCEP自体は、対象ルールも限られており、相互の関税引き下げなども、TPPに比して、対象品目も、引き下げ幅もそれぞれの国の可能な範囲に限定されることとなると思われますが、米国を外した一つの貿易ブロックを形成することとなります。 

米国の対中姿勢は、その中国からの投資にも表れているようです。中国からのいくつかの投資案件に関し不承認とするとともに、8月には外資国家安全審査改革法による外国投資委員会の管理監督権限を強化し、米国の重要産業及び技術に対する中国の投資を制限することとなりました。米国の対中直接投資額は31.3億ドルと中国にとってはシンガポール、韓国、日本に次ぐ第4位、中国の対米直接投資額は103.4億ドル、米国にとっては第10位の投資国ですが、最近中国からの投資が急伸しています。なお、中国の米国債保有率は18.9%と第1位(日本が第2位で16.9%)となっています。中国では、経済成長の鈍化がみられ、国内での資金余剰から海外投資意欲が強くなっているようですが、その主要相手国の米国から締め出された資金が、日本、韓国等アジア諸国に向かうのではと言われています。

(文責:藤岡 典夫)

<参考リンク>
USTR Finalizes Tariffs on $200 Billion of Chinese Imports in Response to China’s Unfair Trade Practices(USTRプレスリリース、9/18)
President Donald J. Trump Secures A Modern, Rebalanced Trade Agreement with Canada and Mexico(ホワイトハウス プレスリリース、10/1)
米国との新たな通商協議(いわゆるFFR) 結果概要(内閣官房TPP等政府対策本部)
日米共同声明(内閣官房TPP等政府対策本部)
TPP 12月30日発効(日本経済新聞(夕)、10/31 )

 

 

国連食糧農業機関(FAO)は、11月6日付で世界の農産物の需給見通し『Food Outlook』を発表しました。このうち、小麦、粗粒穀物、コメ、油糧種子については次の通りとなっています。FAOの見通しについては、以上のほかにキャッサバ、砂糖、肉類、乳製品、魚介類についても含まれておりますので、ご参照ください。

・小麦
2018/19年度の世界の小麦の需給はタイトになると予想され、それを受け、小麦の国際価格が前年に比べ堅調です。2018年の小麦生産量は、前年の記録的水準と比べ4.3%減の7億2,790万トンになると見込まれます。EU、ロシア、中国、オーストラリアでは減産が見込まれる一方、北米、南米では生産見通しが改善しています。

2018/19年度の小麦消費はわずかな増加にとどまる見込みです。ロシアとウクライナにおいて、国内供給の減少と価格の上昇により小麦の飼料向け利用が影響を受けた一方、小麦の食用利用は1%増となり、1人当たり消費量も比較的安定すると見込まれます。

生産量が消費量を下回るため、2019年の世界の小麦在庫は期首の水準から4.5%減少すると予想されます。この減少分は、主要輸出国であるロシア、EU、米国に集中し、中国とインドで見込まれる在庫積み増し分を打ち消すとみられます。その結果、主要輸出国の小麦の期末在庫率は5年ぶりの低水準となる16.3%に落ち込むと予想されます。

・粗粒穀物
2018/19年度の世界の粗粒穀物市場はタイトになると予想されますが、前年度からの繰り越し在庫が豊富にあるため、供給は引き続き十分にあると見込まれます。

2018年の粗粒穀物生産は前年に比べ2.2%の減少が予想されます。これは、多くの生産国で天候不順によりトウモロコシが減産となり、大麦も6年ぶりの減産が見込まれるためです。ただ、アジアと米国が天候に恵まれ単収を伸ばしていることから、生産の見通しは初期の見通しよりも大幅に改善されてきています。

供給が限られているにもかかわらず、2018/19年度の粗粒穀物の消費は前年比2.2%増となり、過去最高水準に達すると予想されます。特にトウモロコシは、中国と米国において飼料および工業向け利用への需要が堅調なため、世界全体の消費も過去最高値に達する見込みです。大麦やソルガム、飼料用小麦の供給がタイトとなっていることも、トウモロコシ消費の急増を後押ししています。

2018/19年度の粗粒穀物の在庫は、2012/13年度以降で初めての減少が予想されます。減少の大部分はトウモロコシで、特に主要輸出国や、在庫調整策を打ち出している中国での減少を反映したものです。在庫減と利用増により、世界全体の在庫率は、5年ぶりの低水準となる22.3%に落ち込むと予想されます。

・コメ
2018年の世界のコメ生産量は1.3%増加し、過去最高値に達する見込みです。これは、モンスーンの降雨と最低支持価格の上昇に支えられたインドに加え、バングラデシュ、マダガスカル、スリランカ、米国、タンザニア、ベトナムでも増産が見込まれているためです。一方、中国とエジプトでは政策の影響で減産が見込まれ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ・カリブ海、オセアニアでも収益の落ち込みが生産を抑制するとみられます。

2018/19年度のコメ消費は、食用向けの増加が見込まれる一方、飼料用と工業利用は減少が見込まれ、全体として1.1%の増加となる見込みです。

2018/19年度末の世界のコメ在庫は全体で2.6%の増加が見込まれます。このうち輸出国ではインドと米国で、輸入国では主に中国、インドネシア、フィリピンで在庫増が予想されます。これにより、世界のコメ在庫率は17年ぶりの高水準となる34.2%に達すると予想されます。

・油糧種子
まだ予備的な予測ではありますが、2018/19年度の油糧種子および副産物の需給は安定するとみられます。2018/19年度の世界の油糧種子生産量は、停滞気味であった前年度から回復し、特に大豆とヒマワリ種子の回復によって過去最高値に達すると予想されます。特に大豆は、アルゼンチンでの生産回復と米国での単収向上によって、大幅な増産が予想されます。

2018/19年度の油かすの消費は、中国での飼料向け需要が不振であることから、世界的にも停滞するとみられます。一方、油脂類の消費は、主要消費国での経済成長やバイオディーゼルセクターからの需要が引き続き見込まれることから、増加を維持するとみられます。現時点の予測では、2018/19年度は油糧作物製品の生産量が油/油かすの消費を上回るため、期末在庫は大豆を中心に増加し、主要輸出国の在庫率も史上最高水準に達すると予想されます。

今後数ヵ月間は、南米の大豆と東南アジアのパーム油生産に影響を与える要因が、油糧種子の価格動向を左右することになります。また、米国と中国間の貿易関係も、動向を左右する重要な要因になるとみられます。

(文責:森 麻衣子)

 <参考リンク>
Food Outlook, November 2018 (FAO, 11/6)
 

『海外農林業情報』のバックナンバーは、こちらから。

刊行物一覧へは、こちらから。