『海外農林業情報』No.68

海外農林業情報 No.68 (2017年1月26日


米国新大統領就任とTPPの動き

1月20日、ドナルド・トランプ氏が米国の新大統領に就任しました。トランプ大統領は同日付で6項目にわたる基本政策を発表し、通商戦略として、TPPからの撤退(withdraw)とNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を表明しました。また、23日にはTPPから離脱するための大統領覚書(presidential memorandum)に署名し、貿易交渉を担当する米国通商代表部(USTR)に対し、「署名国から離脱し、TPP交渉から米国が永久に離脱するよう指示する」とし、「他の参加国に文書で離脱を通告するよう」指示しました。また、「私の政権の意図は、個別の国と直接一対一で将来の貿易交渉を進めることだ」と表明しました。

TPP協定の発効条件は、「原署名国(original signatories)の2013年のGDP合計の85%以上を占める少なくとも6ヵ国が国内法による手続きを完了した旨を寄託者(ニュージーランド外相)に通報した場合」(協定第30・5条)となっています。日本は、1月20日に、トランプ大統領就任直前に、寄託者に「国内の批准手続きを終了した」旨通報しましたが、GDPの60.4%を占める米国が批准しない限り発効しないこととなります。トランプ大統領の指示は、「TPP協定の署名から離脱(withdraw)」となっており、新政権が、指示をどのように実行してくるのかについては不明確です。原署名国からの離脱ということであれば、TPP協定の米国に関する規定がすべて無効となり、発効条件の「原署名国のGDP合計」から米国のものを除くこととなると考えられますが、この「原署名国からの離脱」ということは、すべての署名国の合意を必要とするのではないかと考えられます。この合意がない限り、米国の一方的意向が示されただけとなって、TPP協定は宙に浮いた形になるのではないかと予想されます。

他方、米国議会側では、上下院とも、自由貿易の原則を支持する共和党が過半数を占めており、通商問題を担当するオリン・ハッチ上院財務委員長も、ケヴィン・ブレイディ下院予算委員長も、トランプ大統領がTPP問題を再考することを期待しているようです。新政権下の通商政策は新設される国家通商会議(National Trade Council)が担当することになりますが、そのメンバーには、それぞれ閣僚として指名を受けている米国通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザー氏、商務長官のウィルバー・ロス氏、大統領補佐官/国家通商会議代表のピーター・ナバロ氏等が予想されています。このうちライトハイザー氏は、かつてレーガン共和党政権でUSTRの次席代表を務めたこともあり、通商問題に通暁しており、議会側には、TPPについても適切な対応をするものと期待されています。

また、大統領覚書の中では、個別の国との2国間交渉を進めることを指示しており、商務長官のロス氏は、まずこの2国間交渉を進めることを示唆しています。また、上院ハッチ財務委員長も、TPP同様の協定をまず日本と結び、その成果を各国に広げていく方法を提案しています。日米間でFTAがないままTPP協定も発効しない場合は、日豪FTAの発効により、米国の食肉、その他の農産物が日本市場で不利な立場になることもあり、農業界からは、その是正措置として日米FTAが求められるのではないかと思われます。また、トランプ大統領は、この大統領覚書署名直後の企業経営者との会合において、米国車の日本市場での販売が阻害されていることを問題として取り上げたと伝えられており、日米FTA交渉では、これが大きな問題となることが予想されます。

英国のEU離脱について
英国のメイ首相は、1月17日、ロンドン市内で演説し、EUからの離脱に関する基本方針を示しました。この中で、EUとの関係に関して、モノ、サービス、投資の自由移動を認めるEUの単一市場には残らない、今後は(現行のカナダ方式となる)新たな自由貿易協定(FTA)を求めていく方向で交渉するとし、3月末までにEU側に離脱を正式に表明するとしました。しかしながら、英国最高裁判所は、1月24日に「EUへの離脱通知には議会の承認が必要」との判決を出し、メイ政権の動きに歯止めがかかる可能性が出てきました。EUからの離脱交渉は、離脱通知後2年以内に完了する必要があり、EU側は事前交渉には応じないとしていることもあり、短期間に終了しなければ、相当の混乱が予想されます。英・EU間の貿易は、相互補完的な関係にあり、FTAの内容は、関税に関してはほぼ現状維持的なものとなると考えられますが、原産証明等通関の手続きに相当な負担がかかるものと思われます。また、現在EU全体として、WTO上またはFTA上享受している立場をどうするかを含めて、EU以外の国との関係の取り扱いが問題となるのではないかと考えられます。特に、農産物の場合、関税割当枠の取り扱い、WTO上認められている補助金の総額の取り扱い問題があると思われます。さらに、英国農政がEUの共通農業政策(CAP)から離れるに従い、英国農業に大きな変動をもたらすことも考えられます。

<参考リンク>
Trade Deals Working For All Americans(White House、1月20日付)
Presidential Memorandum Regarding Withdrawal of the United States from the Trans-Pacific Partnership Negotiations and Agreement(White House、1月23日付)
EU単一市場を完全撤退 英首相、離脱方針を表明(日本経済新聞、1月18日朝刊)

 ( 文責:森 麻衣子)


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海外農林業情報 No.67 (2016年12月22日


日EU間のEPAの動き

日EU間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)は、2013年3月の首脳間合意により開始されました。これは、関税撤廃や投資ルールの整備等を通じて貿易・投資を活性化することを目指して、日本にとってはTPPと並ぶ、EUにとっては米国と交渉中のTTIPと並ぶ「メガFTA」の一つとなることを目指したものです。

交渉は、2014年4月には物品の関税引下げオファーが、さらに7月には投資、サービス分野の自由化のオファーが交換され、本格化されました。しかしながら、交渉分野としても、物品、サービス、知的所有権、政府調達、投資ルール、非関税障壁ということで、TPPより範囲が限られており、また、日本側としては、TPP交渉が先行しており、この枠を出ない対応にならざるを得ない状況となっていたと思われます。また、交渉は、交渉官レベルで積み重ねられており、双方とも具体的な内容を公表しないということで不透明なところがありますが、EU側の関心は、チーズ、豚肉、ワインの市場アクセス改善と地理的表示(GI)の保護、地方公共団体・鉄道の調達(政府調達)の拡大、自動車、加工食品、医薬品等の基準認証に関する非関税措置、日本側の関心は、EUの工業品の関税撤廃、特に自動車の10%関税、電子機器の14%関税の撤廃、日本側の投資企業に対する欧州側の規制問題等で、これらに集中して交渉が行われたようです。

双方は、2016年中の合意を目指していましたが、12月12日から16日までの交渉会議で終着点が見出せず、再度来年1月に会合を持つこととなったと発表されました。EU側の記者会見によれば、残る重要問題は、日本のチーズ、豚肉の市場アクセスとEUの工業品の関税だったようです。EU側は、日本のチーズ、豚肉問題の対応によって自動車、電子機器の関税引き下げに応ずる準備はあるとのことで、また、EU側交渉官によれば、豚肉では、「前進があった」とされています。双方とも、グローバリゼーションのモメンタムを維持するためにも、何とか米国のトランプ大統領の就任式(1月20日)前に決着を図りたい意向があるようで、1月の交渉、その直後にでも閣僚交渉を行っていく構えのようです。もし、この機会を失するとフランス、ドイツの選挙、3月には、英国離脱の通告が予想されているため、これも漂流せざるを得なくなるのではないかと言われています。

<参考リンク>
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(外務省ホームページ)
年内の大枠合意難しく(日本経済新聞、12月17日朝刊)
日欧EPAに時間の壁(日本経済新聞、12月18日朝刊)
日欧EPA年内大枠合意見送り(日本農業新聞、12月18日)

 

( 文責:森 麻衣子)


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