『海外農林業情報』No.76

海外農林業情報 No.76 (2017年9月7日


TPP11の状況

米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)参加11ヵ国の首席交渉官会合が、8月28日から30日まで、オーストラリアのシドニーで開催されました。本誌のNo.74(2017年7月18日号)でも紹介しましたように、米国のTPP離脱を受けて、12ヵ国で合意した協定をどのように修正するかが議論されてきています。協定の発効条件は、「参加国全体のGDPの85%以上を占める6ヵ国以上の国々の国内手続きの完了」とされていますが、米国抜きで発効させるように修正することでは異論はないようです。それ以外に、米国との交渉で受け入れられた項目については、当面凍結し、米国の参加が確定した段階で復活させる方向で検討するようです。

今回の会合においては、各国から合意項目の一部についての凍結を求める意見が提出されたようですが、このうち、新薬のデータ保護期間(米国の要求を受けて国際標準より長い実質8年間とされた)と、特許期間の延長(特許審査が遅れた場合は特許期間を延長する)については、凍結することでほぼ一致したもようです。このほか、著作権の保護期間(70年に延長)、公営企業の規制、政府調達の自国民優先の撤廃などの分野の凍結の提起もあり、これらは今後議論していくこととなったようです。さらに、関税や輸入枠など市場アクセスの分野については、それぞれの2国間の協議を経てきたものであり、米国との交渉結果をどう取り扱うか検討が必要となるようです。いずれにせよ、農業に関しては、大きな影響はないのではないかと思われます。

凍結事項は、9月後半に日本で予定されている次回の首席交渉官会合で、各国の要望項目を提出して議論することとされており、11月のAPEC首脳会議までの合意を目指して交渉が続くことになりますが、オーストラリアやニュージーランドなど協定の早期発効を目指す国と、ベトナムやマレーシアなど米抜きの発効に消極的な国との温度差があり、なかなか見通しが立ちにくい状況のようです。


NAFTA再交渉の状況

米国、カナダおよびメキシコの3ヵ国による北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の第1回閣僚会議が、8月16日から20日まで、ワシントンで開催され、この交渉に臨むトランプ政権の方針が示されました。

米国は、米国の貿易赤字の解消をこの交渉の目的として掲げ、原産地規則の厳格化と、為替条項の導入などを求めたとされています。
貿易赤字問題に関しては、定期的な貿易レビューのメカニズムを設けることを提案したようです。原産地規則については、たとえば乗用車の場合、現在の条項では、域内の部品調達比率が62.5%を超えれば最終製品にゼロ関税が適用されますが、この比率を引き上げるとともに、米国産の比率をも規定するよう主張したようです。これについては、カナダやメキシコが協定の基本原則に反するとして反対したようです。為替条項については、為替操作が行われた場合の自国産品の防衛的措置の導入を提起したようですが、国際金融政策に支障が生ずる恐れがあるとして、カナダもメキシコも難色を示しているようです。そのほか、ダンピングや不公正貿易に関しての米国の国内規則適用を妨げる条項を撤廃すること、労働・環境協定をNAFTAの協定本文に組み込むこと、政府調達、農業の分野での市場アクセスを改善することなどを主張したようです。
このような考え方は、NAFTAに限らず、トランプ政権としてのすべてのFTA交渉の基本的な考えとなると受け止められており、各国とも警戒しているようです。

続いて、第2回閣僚会議が、9月1日-5日にメキシコで開催され、共同声明が出されました。今年中の終結を目指して交渉を加速するとしていますが、基本的な考え方に差があるようで、今後の折衝が懸念されます。次回の交渉は、9月23日-27日に、カナダのオタワで開催されます。


<参考リンク>
TPP凍結項目を整理 首席交渉官会合(日本経済新聞、8/30付)
TPP11、凍結項目で溝 著作権や政府調達など(日本経済新聞、8/31付)
日本 見直し提案せず TPP11首席会合終了(日本農業新聞、8/31付)
NAFTA再交渉、成果乏しく 年内決着に不安(日本経済新聞、8/22付)
Trilateral Statement on the Conclusion of NAFTA Round One(USTR、8/16付)
Trilateral Statement on the Conclusion of the Second Round of NAFTA Negotiations(USTR、9/5付)

文責:藤岡 典夫

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海外農林業情報 No.67 (2016年12月22日


日EU間のEPAの動き

日EU間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)は、2013年3月の首脳間合意により開始されました。これは、関税撤廃や投資ルールの整備等を通じて貿易・投資を活性化することを目指して、日本にとってはTPPと並ぶ、EUにとっては米国と交渉中のTTIPと並ぶ「メガFTA」の一つとなることを目指したものです。

交渉は、2014年4月には物品の関税引下げオファーが、さらに7月には投資、サービス分野の自由化のオファーが交換され、本格化されました。しかしながら、交渉分野としても、物品、サービス、知的所有権、政府調達、投資ルール、非関税障壁ということで、TPPより範囲が限られており、また、日本側としては、TPP交渉が先行しており、この枠を出ない対応にならざるを得ない状況となっていたと思われます。また、交渉は、交渉官レベルで積み重ねられており、双方とも具体的な内容を公表しないということで不透明なところがありますが、EU側の関心は、チーズ、豚肉、ワインの市場アクセス改善と地理的表示(GI)の保護、地方公共団体・鉄道の調達(政府調達)の拡大、自動車、加工食品、医薬品等の基準認証に関する非関税措置、日本側の関心は、EUの工業品の関税撤廃、特に自動車の10%関税、電子機器の14%関税の撤廃、日本側の投資企業に対する欧州側の規制問題等で、これらに集中して交渉が行われたようです。

双方は、2016年中の合意を目指していましたが、12月12日から16日までの交渉会議で終着点が見出せず、再度来年1月に会合を持つこととなったと発表されました。EU側の記者会見によれば、残る重要問題は、日本のチーズ、豚肉の市場アクセスとEUの工業品の関税だったようです。EU側は、日本のチーズ、豚肉問題の対応によって自動車、電子機器の関税引き下げに応ずる準備はあるとのことで、また、EU側交渉官によれば、豚肉では、「前進があった」とされています。双方とも、グローバリゼーションのモメンタムを維持するためにも、何とか米国のトランプ大統領の就任式(1月20日)前に決着を図りたい意向があるようで、1月の交渉、その直後にでも閣僚交渉を行っていく構えのようです。もし、この機会を失するとフランス、ドイツの選挙、3月には、英国離脱の通告が予想されているため、これも漂流せざるを得なくなるのではないかと言われています。

<参考リンク>
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(外務省ホームページ)
年内の大枠合意難しく(日本経済新聞、12月17日朝刊)
日欧EPAに時間の壁(日本経済新聞、12月18日朝刊)
日欧EPA年内大枠合意見送り(日本農業新聞、12月18日)

 

( 文責:森 麻衣子)


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