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虫を知る

ミャンマー:2019年度アジア・アフリカの農業者に対する農業技術指導(農林水産省補助事業)

2019年5月、ミャンマー中央乾燥地帯にあるMagway地域Aung Lanタウンシップ(T/S)にて、ゴマ葉化病(Sesame Phyllody Disease:SPD)の防除試験を始めました。このゴマは、Sesame jassid(ヨコバイ類)が病原体であるPhytoplasmaを媒介することによって広がります。

 このSesame jassidは、成虫の体長が3mm度、leafhopperというだけあって、「あ、いた!」と思った次の瞬間にはいなくなります。Aung Lan T/Sのゴマ畑は砂質土壌が多く、ゴマの葉の上に止まっているときは見つけられても、一旦跳ぶと、もう分からなくなります。見事なほどの隠れぶりの上に、現地では、同じくらいの体長で同じように素早く動くカメムシ類が大量に発生しており、見分けるのがとても困難です。実際、農家も普及員も農薬販売店の技術者も、Sesame jassidとカメムシを混同していました。村の中を回る時、害虫専門家は常に、深さ5cmほどのガラス管瓶にSesame jassidとカメムシを入れて持ち歩き、農家に見せては、それらの違いを説いています。肉眼では判別が難しいため、10数倍の倍率を持つルーペも使って、農家に見てもらっています(写真1)。Sesame jassidの羽には、まるでレース模様のような繊細な透かしが入っており、これがカメムシや他のjassidと区別する際の印になるのです(写真2)。これまで見てもらった農家は全員、「初めて見た」と言っていました。

 防除試験と並行して、Sesame jassidの発生も調査しています。Sesame jassidについては不明な点ばかりで、調査方法も手探りですが、今回採用している調査方法は大きく分けて2つ。①ゴマや圃場周辺の砂地で捕虫網を規定回数振り、中に入った虫をカウントする方法(すくい取り法)と、②黄色粘着板を試験圃場に設置し、一定期間に粘着板に付いた虫をカウントする方法です。いずれも、定期的な調査が重要であり、Aung Lan T/Sの普及員がこの役を担っています。普及員はこうした害虫調査は初体験で、どのような結果が出るかは分かりません。しかし、当初はSesame jassidを見分けることもできなかった普及員が、今は、黄色粘着板に張り付いたSesame jassidを見分けるまでになりました(粘着板に付くと、そこで暴れる際に羽がちぎれたり、体が張り付いて歪んだりして、さらに見分けるのが困難になります・・・!)。(写真3)

 すくい取りについては、日本から専門家が行った際も、現地で毎日のように行っていますが、思ったよりも個体数が少ない印象です。また、圃場によって発生状況が違うようです。6月の調査では11ヵ所のゴマ圃場ですくい取りを行いましたが、0頭から3.2頭まで、捕獲頭数にはバラツキがありました。

 調査は、すくい取った植物や砂の山から3mmの砂色をしたSesame jassidを探したり、ベタベタした粘着板に無数についた虫や砂から張り付いたSesame jassidを見つけたりと、地道で地味な作業の連続です。面倒で大変ですが、暑い炎天下で捕虫網を振り、ゴマの葉にかじりついて虫を探すという作業に、普及員や農家が積極的に参加しています。彼らが虫への関心を高めているのが感じられます。Sesame jassidを見た農家は、「ルーペを買わなきゃ」と言っていました。

まずは虫を知ること――。現地関係者の実践が続きます。

 

(報告:西山亜希代)