『海外農林業情報 No.94』

海外農林業情報 No.94 (2019年2月19日

 目 次
・【世界の食料需給の動向】米国農務省の農産物需給見通しについて
・【世界の貿易関係の動向】日EU・EPAの発効等

 

 

【世界の食料需給の動向】米国農務省の農産物需給見通しについて


米国農務省は2月8日付で、2018/19年度の穀物を中心とした農産物の需給見通しを発表しました。米国では連邦予算の一部失効による政府機関の閉鎖の影響を受け、1月の需給見通しが発表されず、2月の発表が注目されていました。穀物と大豆の概況は次の通りとなっています。
(同発表文では、前回2018年12月発表値との比較を中心に記述されていますが、ここでは前年度との比較も加えて解説していきます。)

小麦
2018/19年度の世界の小麦生産は、ロシア、ブラジル、パラグアイで昨年12月の報告よりも上方修正されたものの、前年度に比べると3.7%減の7億3475万トンと見込まれています。小麦の輸出は、パキスタンやロシア、パラグアイで上方修正があったものの、世界全体では前年度比1.4%減の1億7867トンと予想されます。小麦の消費は、飼料用等利用が米国で下方修正された一方、中国で上方修正され、世界全体では前年度比0.4%の7億4723万トンと見込まれます。世界の期末在庫は、消費が供給を上回ることから、前年度比4.5%減の2億6753万トンと予想されています。

トウモロコシ
トウモロコシの生産は、アルゼンチン、中国とウクライナで上方修正、米国と南アフリカ、メキシコで下方修正があり、世界全体としては前年度比2.2%増の10億9961万トンと見込まれます。アルゼンチンでは、ここ2ヶ月間の十分な降雨と温暖な気候が単収予想を引き上げました。一方、南アフリカでは、特に西部の生産地で1月に高温と乾燥に見舞われたため下方修正となりました。
2018/19年度のトウモロコシ輸出は、アルゼンチンとウクライナで上方修正、南アフリカとメキシコで下方修正され、世界全体では前年度比14.4%増の1億6736万トンとなっています。期末在庫は、アルゼンチンと中国で上方修正があったものの、世界全体としては消費が生産を上回り、前年度比9.1%減の3億978万トンと見込まれます。

コメ
2018/19年度の世界のコメ生産は、中国での増産を大きく反映して上方修正され、前年度比0.2%増の4億9587万トンと予想されます。消費は、中国、ネパール、フィリピンで上方修正、ブラジルとナイジェリアで下方修正があり、世界全体では前年度比1.6%増の4億9027万トンと見込まれます。輸出は、カンボジアとタイ、ビルマで下方修正、中国で上方修正がありましたが、前年度とほぼ同水準の4772万トンと予想されます。中国では、供給量の増加と競争力のある輸出価格により、輸出量が2002/03年度以降最も高い水準に達しています。生産量が消費量を上回るため、世界の期末在庫は記録的な水準となる1億6762万トン(前年度比3.5%)と見込まれ、このうち69%を中国が占めています。

大豆
2018/19年度の大豆生産はブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、南アフリカで下方修正があったものの、世界全体では前年度比6.2%増の3億6099万トンと予想されています。ブラジルでは南部と中西部の一部で乾燥に見舞われ、12月比500万トン減となりました。大豆の輸出は、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイで下方修正、アルゼンチンで上方修正があり、世界全体では前年度比0.9%増の1億5436万トンと予想されています。また、中国で搾油需要が低下していることから、世界の大豆輸入も下方修正されています。2018/19年度の期末在庫は、アルゼンチンで下方修正、ブラジルで上方修正がありましたが、世界全体では生産が消費を上回り、前年度比8.8%増の1億672万トンと予想されています。

2月の発表は上記の通りですが、3月は米国議会の予算が通らず再び機能停止する恐れがあります。そのため、例年は3月に発表され相場の重要なポイントとなる本年度初の米国の作付け意向調査がどうなるかが、市場の大きな関心事となっています。米国の大統領と議会の対立が穀物市況に影響することが予想されます。
(文責:森 麻衣子)

<参考リンク>
World Agricultural Supply and Demand Estimates(USDA、2/8)
大豆の国際価格上昇 米農務省の需給報告 来月8日再開か(日本経済新聞、1/29)
米産大豆、供給過剰続く 2月の米穀物需給(日本経済新聞、2/9)
 

【世界の貿易関係の動向】日EU・EPAの発効等


日EU・EPAが2月1日に発効しました。世界のGDPの27.8% 、世界貿易の36.9%をカバーする巨大な自由貿易圏となります。我が国は品目ベースで約94%の輸入品の関税撤廃、EU側も約99%の品目の関税が撤廃されます。農林水産品については、我が国は82%の関税を撤廃し、重要品目についても市場開放を進めます。例えば、ソフト系のチーズは、輸入枠を設けた上で枠の拡大と枠内関税の削減を毎年段階的に進め、16年目に3万1000トンの枠内関税がゼロとなります。ハード系のチーズは16年目に関税を撤廃します。豚肉は従価税・従量税をそれぞれ段階的に削減し、10年目に従量税50円だけになります。ワインは、関税を即時撤廃します。他方、EU市場へのアクセスについて、牛肉、茶、水産物等の重点品目を含め、ほぼ全ての農林水産品目で関税の即時撤廃を獲得しています。とはいえ、検疫上の障壁等の問題は残りますので、直ちに輸出の拡大が期待できるという状況ではありません。日EU・EPAには、市場アクセス以外に、農産品と酒類の地理的表示(GI)の保護を含む知的財産の保護など幅広い分野のルールも盛り込まれています。農林水産関係の日EU・EPAの詳細については、本誌No.73(2017年7月12日号)のほか、農林水産省のホームページ(下記リンク先)を参照してください。

日EU・EPAの関税削減や輸入枠数量は、4月から2年目の水準に進みます。このことは昨年末に発効したTPP11も同様で、TPPを離脱した米国にとって対日輸出に一層不利な状況になります。米国農業団体からの対日圧力は一層増大し、日米TAG(物品貿易協定)交渉に影響を与えるものと思われます。

日米TAGについては、米国にとって中国への対応が優先事項になっている現状等から、まだ開始されていません。米中協議については、1月30日-31日に中国の劉鶴副首相が訪米してライトハイザーUSTR代表らと閣僚級協議を行い、続いて2月14日-15日に北京で再び閣僚級協議が開催されました。米国産農産品の輸入拡大等で一定の前進があったものの、中国による技術移転の強要や国有企業への補助金の問題等で溝が残ったようです。終了後のホワイトハウスの声明によれば、「多くの作業が残って」おり、次週はワシントンで協議が継続されるとのことです。3月1日の協議期限の延長の可能性も検討されているようです。
(文責:藤岡 典夫)

<参考リンク>
日EU・EPAについて(農林水産省)
Statement of the United States Regarding China Talk(ホワイトハウス、2/15)
米中、構造問題なお溝 米で閣僚協議を続行 (日本経済新聞、2/15)
 

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