『海外農林業情報』No.58

海外農林業情報 No.58 (2016年5月16日


第13回TTIP交渉について

4月25日から29日にかけて、米国・EU間の第13回TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)交渉がニューヨークで行われました。終了後、両国の主席交渉官による記者会見が行われ、米国のムラニー主席交渉官は、全体として意欲的、総合的かつ高度の合意を今年中に目指すと述べました。一方、今回の交渉は建設的であったものの、まだ相当の問題が残っているとしています。

交渉内容を分野別に見ると、「労働」と「環境」分野についてはほぼ一致し、「中小企業」「税関」「貿易措置」「競争」分野については、数点を残して一致したとしました。

「基準認証」に関しては、規制方式について互いに透明性を高めること、新たな基準認証制度の策定に当たっては共通性を持たせることで、おおむね一致しました。既存の認証制度(車、医薬品、医療器具、化粧品を含む9分野)については、互いに同等性を認め合うこと、特に医薬品については相互認証を行うことで、統一していく方向に向かっています。

「関税」に関しては、即時撤廃の対象を品目全体の87.5%から90%に引き上げ、全体としては将来的に97%の品目について撤廃していくこととしています。残りの3%については、重要品目として例外扱いにするかどうかが焦点となり、米国側は時間をかけてでも撤廃、EU側は牛肉や豚肉といった重要品目はあくまで例外扱いとすることを求めているようです。さらに、EU側は、例外品目をGI(地理的表示)と絡めて交渉していく構えで、GIの対象品目を当初の200品目から50品目まで引き下げたようです。また、米国側はGIを国内の商標登録制度の中で実施していくとしていますが、EU側は、GIのための新たな保護制度を作るよう求めています。

このほか、農業に関してはSPS(衛生植物検疫)が争点ですが、米国はTPPと同様、提訴前の早急な協議制度を提案しているようですが、同時に、従来からの懸案である遺伝子組換え作物の取扱い、鶏肉の薬品消毒問題が、早急に片付くようなものでなければならないとしており、相当な意見の相違があるようです。

また、弁護士や会計士等の資格に関して、「専門職の資格に関する相互認証制度」を設けることについても、相当の前進が見られたとされています。

このほか、「サービス」分野に関しては、ネガティブリスト方式にすることで合意したようですが、例外品目として、EU側は50分野(従来の250分野から引き下げ)、米国は2分野を求めており、相当の隔たりがあるようです。なお、この中には従来から問題となっている米国の国内海運も含まれています。

「投資」分野では、企業の対政府訴訟に関して合意に至っておらず、EU側は、訴訟のための国際投資裁判所を設けるよう求めています。

「競争政策」に関しては、独占禁止法、企業合併、補助金、公的企業をカバーするような条項を設けることで合意し、相当の前進が見られたようです。

 次回の交渉は夏休み前、おそらく7月頃とされています。一方、オバマ大統領は、4月22日に行われた記者会見で、英国がEUにとどまるかどうかが6月23日の国民投票で決定することについて、記者からの質問に答え、もし英国がEUから離れることになれば、TTIPについてはこのまま進め、英国とは別途交渉することになるだろうと述べています。


<参考リンク>
Opening Remarks by U.S. and EU Chief Negotiators from the New York Round of Transatlantic Trade and Investment Partnership Negotiations(USTR、英語)
Statement by Ignacio García Bercero EU Chief Negotiator for TTIP(EU、英語)

( 文責:森 麻衣子)
 

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