『海外農林業情報』No.77

海外農林業情報 No.77 (2017年11月2日


TPP11およびNAFTA再交渉の動向

TPPは、発効前に米国が離脱を表明し、発効条件がクリアできなくなり、残りの11ヵ国で発効させるべく、発効条件等の見直しが行われております。いわゆるTPP11ですが、11月のAPEC首脳会議の際に、関係国が集まって大筋合意できるよう、首席交渉官会合で検討されております。この第4回会合が、10月30日から11月1日までの間、千葉県浦安市で開催されました。発効条件の変更のほか、各国が米国との交渉でやむを得ず受け入れた項目についても、米国の参加まで留保したいとの意向が示されており、前回9月の会合で、各国から80項目の凍結が提示されました。それぞれの国と米国との間のみで合意されている関税、サービス、政府調達等は、当然米国の参加まで凍結されますが、多国間のルールの分野でも、知的財産の保護期間、植物製剤のデータ保護期間、政府関連企業の規制等に関して凍結したい意向が示されているようです。なお、これらの中には、農林業に直接関係するものは含まれていません。

今回の会合では、各国から50項目程度の凍結要求があり、その絞り込みの作業が行われました。そのうち15-20項目前後まで減らすことが出来たとされ、その中には著作権保護期間や電気事業者の紛争処理ルールが含まれているようです。しかし、ベトナムが見直しを要求している繊維製品の原産地規則の扱い等合意に至らなかった項目もあり、これらに関しては、11月のAPEC首脳会議の際に関係閣僚会議で検討されることとなったようです。

国際的なルールの基準となるような協定としたい日本、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリアに対して、ベトナム、マレーシア等が消極的で、また、カナダ、メキシコはNAFTAの交渉が気になっているようです。なお、ニュージーランドの新政権が当初TPPに消極的と伝えられていましたが、TPP参加へ方針転換したようです。いずれにせよ11月8日の関係閣僚会議が山場となります。

以上のように、TPP11の方は、米国の参加を促す方向で進められておりますが、米国側は、10月17日の第2回日米経済対話で、むしろ日米二国間のFTA交渉に強い関心を示したとされております。さらに、米国は、米韓FTAの改定交渉を韓国に飲ませ、NAFTAの改定交渉でも、強硬な態度を示すなど、トランプ政権の通商政策は、国内からも批判が出るほど国内優先の考え方が露骨なようです。具体的に交渉に入っているNAFTAでは、自動車および部品の原産地規則について、米国産品の使用50%以上、域内産品85%(現在62.5%)以上を主張しており、貿易収支問題も、5年後に見直して、米国の収支改善が見られない場合は協定を打ち切る条項を入れることを求めているようです。これに関するメキシコとカナダの抵抗は激しく、年内に交渉を終えるとしていたものが、少なくとも来年3月までは伸びることとなったようです。

<参考リンク>
Trilateral Statement on the Conclusion of the Fourth Round of NAFTA Negotiations(USTR、10/17付)
Preparing for the worst: On NAFTA, America, Canada and Mexico are miles apart (The Economist, 10/21付)
NAFTA崩壊も視野に(上記翻訳記事:日本経済新聞、10/25付)
TPP11 半歩前進 11月合意、時間との勝負(日本経済新聞、9/23付)
NAFTA、年内を断念 トランプ氏「米国第一」固執」(日本経済新聞、10/19付) 
TPP月内合意へ進展 (日本経済新聞、11/2付)
TPP首席交渉官会合が閉幕、APECでの大筋合意に足並み揃う(梅本首席交渉官の記者会見動画あり)(TBS News、11/1付)


文責:藤岡 典夫
 

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海外農林業情報 No.67 (2016年12月22日)


日EU間のEPAの動き
日EU間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)は、2013年3月の首脳間合意により開始されました。これは、関税撤廃や投資ルールの整備等を通じて貿易・投資を活性化することを目指して、日本にとってはTPPと並ぶ、EUにとっては米国と交渉中のTTIPと並ぶ「メガFTA」の一つとなることを目指したものです。

交渉は、2014年4月には物品の関税引下げオファーが、さらに7月には投資、サービス分野の自由化のオファーが交換され、本格化されました。しかしながら、交渉分野としても、物品、サービス、知的所有権、政府調達、投資ルール、非関税障壁ということで、TPPより範囲が限られており、また、日本側としては、TPP交渉が先行しており、この枠を出ない対応にならざるを得ない状況となっていたと思われます。また、交渉は、交渉官レベルで積み重ねられており、双方とも具体的な内容を公表しないということで不透明なところがありますが、EU側の関心は、チーズ、豚肉、ワインの市場アクセス改善と地理的表示(GI)の保護、地方公共団体・鉄道の調達(政府調達)の拡大、自動車、加工食品、医薬品等の基準認証に関する非関税措置、日本側の関心は、EUの工業品の関税撤廃、特に自動車の10%関税、電子機器の14%関税の撤廃、日本側の投資企業に対する欧州側の規制問題等で、これらに集中して交渉が行われたようです。

双方は、2016年中の合意を目指していましたが、12月12日から16日までの交渉会議で終着点が見出せず、再度来年1月に会合を持つこととなったと発表されました。EU側の記者会見によれば、残る重要問題は、日本のチーズ、豚肉の市場アクセスとEUの工業品の関税だったようです。EU側は、日本のチーズ、豚肉問題の対応によって自動車、電子機器の関税引き下げに応ずる準備はあるとのことで、また、EU側交渉官によれば、豚肉では、「前進があった」とされています。双方とも、グローバリゼーションのモメンタムを維持するためにも、何とか米国のトランプ大統領の就任式(1月20日)前に決着を図りたい意向があるようで、1月の交渉、その直後にでも閣僚交渉を行っていく構えのようです。もし、この機会を失するとフランス、ドイツの選挙、3月には、英国離脱の通告が予想されているため、これも漂流せざるを得なくなるのではないかと言われています。

<参考リンク>
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(外務省ホームページ)
年内の大枠合意難しく(日本経済新聞、12月17日朝刊)
日欧EPAに時間の壁(日本経済新聞、12月18日朝刊)
日欧EPA年内大枠合意見送り(日本農業新聞、12月18日)

 

( 文責:森 麻衣子)

 

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