『海外農林業情報』No.78

海外農林業情報 No.78 (2017年11月16日


FAO世界食料需給見通し

国連食糧農業機関(FAO)は、11月9日付で世界の農産物の需給見通し『Food Outlook』を発表しました。このうち、小麦、粗粒穀物、コメ、油糧種子については次の通りとなっています。穀物全体としては、予想される需要を上回る供給と十分な在庫があることから、2017/18年の需給状況は順調とみられます。2017/18年度の油糧種子の需給も、おおむね順調と予想されています。FAOの見通しについては、以上のほかにキャッサバ、肉類、乳製品、熱帯果実についても含まれておりますので、ご参照ください。

・小麦
2017年の世界の小麦生産は、米国とオーストラリアでの生産減を受けて、2016年を若干下回る7億5280万トンになると見込まれますが、それでも史上2番目に高い水準となります。
小麦の消費(utilization)は、記録的だった前年の水準を0.7%上回る7億3820万トンに達すると予想されます。在庫に関しては、中国で大規模な積み増しが予想されることから、2017/18年度の世界全体の期末在庫は、期首水準を5%上回る2億5800万トンに達すると予想されます。

・粗粒穀物
2017年の粗粒穀物生産は、南部アフリカおよび南米でのトウモロコシの増産分が米国での減産を上回ることから、世界全体では前年よりも増加すると予想されます。
2017/18年度の粗粒穀物の消費は、飼料向け消費が前年に比べ0.3%増とわずかな増加にとどまっていることから、世界全体の消費も微増にとどまると予想されます。トウモロコシの飼料向け需要は引き続き堅調と予想されるものの、中国と米国において大麦とソルガムへの需要が減少することが、飼料利用全体の増加を抑えています。こうした生産と利用の予想を踏まえると、世界の粗粒穀物の在庫は記録的な水準に達すると見込まれます。

・コメ
2017年の世界のコメ生産は、アジアとアフリカにおける作付面積の拡大にもかかわらず、北半球における夏季の天候不順の影響で生産量が伸びず、2016年の記録的水準をわずかに下回る5億100万トン(精米換算)にとどまると予想されます。
2017/18年度の世界のコメ消費は、食用利用の増加が主要因となり(1人当たり消費量は53.8kg)、前年度を1.1%上回る5億300万トンに達すると予想されます。
世界のコメ在庫は、生産量が伸びず、またタイと米国で在庫の取り崩しがあるものの、中国で在庫の積み増しが予想されることから、2017/18年度の期末在庫は0.4%増とわずかに増加して1億6920万トンになると予想されます。

・油糧作物
2017/18年度の世界の油糧種子・油かすおよび油脂の需給は、おおむね順調と予想されます。世界の油糧作物生産は、大豆とひまわりがわずかに減少するものの、他の作物が補い、昨シーズンの記録的な水準に並ぶ見込みとなっています。大豆の生産は地域によって状況が異なり、北半球、特に米国、中国、カナダでは増産が見込まれる一方、ブラジルとアルゼンチンでは減産が予想されます。


TPP11大筋合意について

11月11日の内閣官房TPP等政府対策本部発表によりますと「11月9日のTPP閣僚会合にて新協定の条文、凍結リスト等を含む合意パッケージに全閣僚が合意(大筋合意)。翌10日の閣僚会合で閣僚合意内容を確認、閣僚声明を作成」となっております。また、環太平洋パートナーシップ閣僚声明では、新協定を「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership, CPTPP)」と称し、その「中核(Core)」について合意したとしております。米国の加盟まで凍結する項目としては、20項目に絞られたようで、著作権の保護期間(死後70年)、投資に関して企業からの政府直接提訴(ISDS)、生物製剤のデータ保護期間(原則8年)、政府調達の例外等で、その他、労働条項、投資の文化条項(政府の自国文化への補助制限)等の4項目が署名条文作成までの継続審議となったようです。直接農林水産物に関する事項はないようです。新TPP(CPTPP)の発効条件としては、GDP条項を外し、11ヵ国中6ヵ国の批准書寄託後60日で発効するとしており、正式の条文は、継続審議事項を含め来年2月の閣僚会合までに作成し、署名することとなっているようです。

10日の閣僚合意の確認をしながら、カナダの翻意により、11日の首脳会議での正式合意の発表が不可能となり、11日発表の閣僚会合共同声明で締めくくらざるを得なかったようです。カナダは、TPPがNAFTAに先行することに躊躇を覚えたと伝えられており、今後は、カナダの批准が遅れた状態で発効することも考えられます。

新協定は、米国との関係で留保事項があるとは言え、それはあくまで「留保」の状態で、先進的な新しい多国間貿易ルールの基準(Standard)となって行くと思われます。今後、米国が個別国とのFTAを求めて行く場合も、これが標準となるので、我が国を含め、各国に主張のベースを与えることとなると思われます。それだけに、タイ、フィリピン、インドネシア、韓国等のアジア各国のみならず、台湾をも含めて、新協定への加盟が促進される可能性があると思われます。

<参考リンク>
Food Outlook, November 2017(FAO、英語)
TPP11協定の合意内容について(2017年11月11日、内閣官房TPP等政府対策本部)


文責:藤岡 典夫/森 麻衣子
 

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海外農林業情報 No.67 (2016年12月22日)


日EU間のEPAの動き
日EU間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)は、2013年3月の首脳間合意により開始されました。これは、関税撤廃や投資ルールの整備等を通じて貿易・投資を活性化することを目指して、日本にとってはTPPと並ぶ、EUにとっては米国と交渉中のTTIPと並ぶ「メガFTA」の一つとなることを目指したものです。

交渉は、2014年4月には物品の関税引下げオファーが、さらに7月には投資、サービス分野の自由化のオファーが交換され、本格化されました。しかしながら、交渉分野としても、物品、サービス、知的所有権、政府調達、投資ルール、非関税障壁ということで、TPPより範囲が限られており、また、日本側としては、TPP交渉が先行しており、この枠を出ない対応にならざるを得ない状況となっていたと思われます。また、交渉は、交渉官レベルで積み重ねられており、双方とも具体的な内容を公表しないということで不透明なところがありますが、EU側の関心は、チーズ、豚肉、ワインの市場アクセス改善と地理的表示(GI)の保護、地方公共団体・鉄道の調達(政府調達)の拡大、自動車、加工食品、医薬品等の基準認証に関する非関税措置、日本側の関心は、EUの工業品の関税撤廃、特に自動車の10%関税、電子機器の14%関税の撤廃、日本側の投資企業に対する欧州側の規制問題等で、これらに集中して交渉が行われたようです。

双方は、2016年中の合意を目指していましたが、12月12日から16日までの交渉会議で終着点が見出せず、再度来年1月に会合を持つこととなったと発表されました。EU側の記者会見によれば、残る重要問題は、日本のチーズ、豚肉の市場アクセスとEUの工業品の関税だったようです。EU側は、日本のチーズ、豚肉問題の対応によって自動車、電子機器の関税引き下げに応ずる準備はあるとのことで、また、EU側交渉官によれば、豚肉では、「前進があった」とされています。双方とも、グローバリゼーションのモメンタムを維持するためにも、何とか米国のトランプ大統領の就任式(1月20日)前に決着を図りたい意向があるようで、1月の交渉、その直後にでも閣僚交渉を行っていく構えのようです。もし、この機会を失するとフランス、ドイツの選挙、3月には、英国離脱の通告が予想されているため、これも漂流せざるを得なくなるのではないかと言われています。

<参考リンク>
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(外務省ホームページ)
年内の大枠合意難しく(日本経済新聞、12月17日朝刊)
日欧EPAに時間の壁(日本経済新聞、12月18日朝刊)
日欧EPA年内大枠合意見送り(日本農業新聞、12月18日)

 

( 文責:森 麻衣子)

 

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