「海外農林業情報No.81」

海外農林業情報 No.81 (2018年2月2日

 

TPP11署名へ

1月22日から23日まで、東京において開催されたTPP11の参加国首席交渉官会合において、CPTPP(TPP11)の協定文が最終的に確定し、3月8日にチリにおいて署名式を行うことに合意しました。昨年11月の大筋合意の際に継続協議となっていた4課題のうち、マレーシアへの国有企業規制の適用と、ブルネイの石炭等に関するサービス・投資自由化については凍結で合意し、ベトナムの労働組合への規制とカナダの放送サービスについての文化的な例外については発効後の取扱いについて各国とその趣旨に関するレターを取り交わすこととなりました。これで、原TPP協定から凍結された項目は22となりますが、農業に直接関係するものはなく、日本の農水産物に関する関税譲許も原案のままとなるようです。ただし、対米のコメ、肉の特別枠は発効することにはならないと思われます。

協定は、11ヵ国中6ヵ国が国内手続を終えて、批准すれば発効することになります。我が国としては、2019年の発効を目指し、今後署名に向けた国内手続を進めるとともに、批准に向けて、CPTPP協定及び関連法案を今国会に提出すべく準備することとされております。

当初、カナダが、NAFTAを優先するために、TPP11の合意に消極的な態度を示し、署名から外れることもあると伝えられましたが、NAFTAに関する米国の姿勢が強硬なことを見て、むしろ、カナダのトルドー首相は、23 日に世界経済フォーラム(ダボス会議)の演説の中で、「本日、カナダとTPP参加10ヵ国は東京でCPTPPの交渉が妥結したことを喜んで発表したい」と発言し、本協定が持続的成長と繁栄、中間層の職の創出という目的に合致する妥当なものであると述べ、この合意を歓迎する意向を示しました。NAFTAに関しては、第6回の交渉会議が1月23日から26日まで開催されましたが、本誌77号にも紹介しましたとおり、自動車の原産地規則や貿易収支改善が見られない場合の協定の終焉など米国が強硬な主張をしており、交渉は難航しているようです。ライトハイザー米国通商代表は、今回の会合終了後の声明において、「腐敗防止の章について交渉が終結し、他のいくつかの章についてもある程度進展があり、また最も難しい論点(原産地規則か)の議論に着手した点で前進したが、進み具合は非常にゆっくりである」と述べ、次回会合も3月末に設定されたこともあり、当初の3月一杯の妥結が事実上無理になったようです。3月一杯と言うのは、現在の米国の交渉権限授権法が6月に終了することとなっており、その3ヵ月前までに議会への報告が必要なため、この期限切れとなってしまうことを念頭に置いているようです。

他方、米国トランプ大統領は、ダボス会議出席のためのスイス滞在中に、フォーラムでの演説の前日に米国のテレビ局とのインタビューで「以前結んだものより十分によいものになれば」との条件付きですが、「TPPへの復帰を検討する」旨を表明したことが大きく報じられましたが、1月26日のフォーラムでの演説では、「個別の国々と2国間交渉をしていく」とし、「もし我々の利益にかなうならグループでも協議する用意がある」と発言しており、TPPへの復帰へと方針を変更したとは評価できないのではないかと思われます。

文責:藤岡 典夫


<参考リンク>
TPP首席交渉官会合結果概要 (平成30年1月 内閣官房TPP等政府対策本部)
TPP11、3月署名合意(日本経済新聞、1/24付)
Closing Statement of USTR Robert Lighthizer at the Sixth Round of NAFTA Renegotiations (USTR,1/29付)
NAFTA再交渉 長期戦?(日本経済新聞、1/31付)
What's the deal with global trade? The view from Davos 2018(World Economic Forum、1/26付)
Trump woos Davos with TPP trade deal shift, says U.S. is ‘open for business’(Japan Times、1/27付)
米、TPP復帰検討(日本経済新聞、1/26付)
 

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海外農林業情報 No.67 (2016年12月22日)


日EU間のEPAの動き
日EU間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)は、2013年3月の首脳間合意により開始されました。これは、関税撤廃や投資ルールの整備等を通じて貿易・投資を活性化することを目指して、日本にとってはTPPと並ぶ、EUにとっては米国と交渉中のTTIPと並ぶ「メガFTA」の一つとなることを目指したものです。

交渉は、2014年4月には物品の関税引下げオファーが、さらに7月には投資、サービス分野の自由化のオファーが交換され、本格化されました。しかしながら、交渉分野としても、物品、サービス、知的所有権、政府調達、投資ルール、非関税障壁ということで、TPPより範囲が限られており、また、日本側としては、TPP交渉が先行しており、この枠を出ない対応にならざるを得ない状況となっていたと思われます。また、交渉は、交渉官レベルで積み重ねられており、双方とも具体的な内容を公表しないということで不透明なところがありますが、EU側の関心は、チーズ、豚肉、ワインの市場アクセス改善と地理的表示(GI)の保護、地方公共団体・鉄道の調達(政府調達)の拡大、自動車、加工食品、医薬品等の基準認証に関する非関税措置、日本側の関心は、EUの工業品の関税撤廃、特に自動車の10%関税、電子機器の14%関税の撤廃、日本側の投資企業に対する欧州側の規制問題等で、これらに集中して交渉が行われたようです。

双方は、2016年中の合意を目指していましたが、12月12日から16日までの交渉会議で終着点が見出せず、再度来年1月に会合を持つこととなったと発表されました。EU側の記者会見によれば、残る重要問題は、日本のチーズ、豚肉の市場アクセスとEUの工業品の関税だったようです。EU側は、日本のチーズ、豚肉問題の対応によって自動車、電子機器の関税引き下げに応ずる準備はあるとのことで、また、EU側交渉官によれば、豚肉では、「前進があった」とされています。双方とも、グローバリゼーションのモメンタムを維持するためにも、何とか米国のトランプ大統領の就任式(1月20日)前に決着を図りたい意向があるようで、1月の交渉、その直後にでも閣僚交渉を行っていく構えのようです。もし、この機会を失するとフランス、ドイツの選挙、3月には、英国離脱の通告が予想されているため、これも漂流せざるを得なくなるのではないかと言われています。

<参考リンク>
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(外務省ホームページ)
年内の大枠合意難しく(日本経済新聞、12月17日朝刊)
日欧EPAに時間の壁(日本経済新聞、12月18日朝刊)
日欧EPA年内大枠合意見送り(日本農業新聞、12月18日)

 

( 文責:森 麻衣子)

 

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