「海外農林業情報No.82」

海外農林業情報 No.82 (2018年3月12日

 

TPP11協定の署名式開催
 

3月8日、チリ・サンティアゴにおいて、TPP参加11ヵ国によるTPP11協定の署名式が行われました。我が国からは、茂木敏充経済財政・再生相が出席しました。協定の正式名称は、「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定」(CPTPP, Comprehensive and Progressive Agreement for Trans - Pacific Partnership)です。


TPPは、2015年10月に12ヵ国により大筋合意したものの、米国の離脱表明により「参加国全体のGDPの85%以上を占める6ヵ国以上の国々の国内手続きの完了」とされていた発効条件がクリアできなくなり、残りの11ヵ国で発効させるべく交渉が行われてきました。発効条件の変更のほか、それぞれの国と米国との間のみで合意されている関税、サービス、政府調達等を、米国の参加まで凍結するのは当然として、多国間のルールの分野でも各国が米国との交渉でやむを得ず受け入れた知的財産の保護期間、植物製剤のデータ保護期間、政府関連企業の規制等に関して凍結したい意向が各国から示され、これらの項目の絞り込み作業がこれまで行われてきました。昨年11月、ベトナムでの閣僚会議で大筋合意し、20項目の凍結が決まったものの、マレーシアへの国有企業規制の適用、ブルネイの石炭等に関するサービス・投資自由化、ベトナムの労働組合への規制およびカナダの放送サービスについての文化的な例外という4課題が継続協議として残りました。これらも、本年1月22日から23日まで東京において開催された首席交渉官会合において、前二者は凍結することで、また後二者は発効後の取扱いについて各国とその趣旨に関するレターを取り交わすことで決着し、ようやく協定文が最終的に確定しました(前号No.81を参照)。こうして今回の署名式に至ったところです。


協定の本文は全7条という短いものですが、第1条に、2016年2月に作成された元のTPP協定が必要な変更を加えた上で組み込まれ、本協定の一部をなすことが規定されています。第2条には、附属書に掲げる項目を凍結する旨が規定され、凍結される22項目が附属書に列挙されています。凍結項目には農業に直接関係するものはありません。


米国の離脱に伴い、我が国の農業関係者の間では、乳製品の低関税輸入枠の縮小など元のTPP協定の修正を求める声が根強かったのですが、修正は行われませんでした。その代わり、「(元の)TPP協定の効力発生が差し迫っている又は効力を生ずる見込みがない場合」(米国の復帰が見込めなくなった場合など)に再び協議をし直すための規定が第6条に置かれました。


協定は今後、「署名国のうち少なくとも6ヵ国または半数」が国内手続を終えれば発効することになります(第3条1項)。我が国は、2019年の発効を目指し、批准に向けて協定及び関連法案を今国会に提出することにしています。ただ、各国の国内手続が順調に進むかどうかについては、NAFTAとの関係を気にしているカナダ、メキシコをはじめ、アジアの各国の中にも、あまり先走りたくない様子が見られ、日本の批准のタイミングが大きなポイントになると思われます。


TPP11は、世界のGDPの13%、貿易額の15%をカバーするメガFTAとなります。このほか、昨年12月には日EU・EPAの交渉が妥結しており、今年の夏に署名を目指しています。こちらのほうは、世界のGDPの28%、貿易額の37%を占めることになります。米国をはじめ内向き傾向が世界的に広がりを見せている中にあって、我が国は世界の新たな貿易体制づくりで重要な役割を果たしているといえるでしょう。


その米国ですが、トランプ大統領が、本年1月のダボス会議で「十分によいものになれば」との条件付きでTPP復帰を検討する旨を表明し、最近も財務長官がTPP再交渉に前向きな姿勢を見せたと報じられています。ただ、2国間交渉を基本とする方針は変えておらず、TPP復帰に方針転換したとはいえないと思われます。いずれにせよ、我が国は、まずは11ヵ国での早期発効を目指し、再交渉なしで米国の復帰を求める考えのようです。なお、協定には米国の復帰を特別扱いする規定はなく、米国が復帰するには、他の国の新規加入と同様、先に国内手続を経た締約国と協議し合意を得る必要があります。

 

<参考リンク>
TPP11協定の署名について (内閣官房TPP等政府対策本部 平成30年3月9日)

文責:藤岡 典夫 

 

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海外農林業情報 No.67 (2016年12月22日)


日EU間のEPAの動き
日EU間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)は、2013年3月の首脳間合意により開始されました。これは、関税撤廃や投資ルールの整備等を通じて貿易・投資を活性化することを目指して、日本にとってはTPPと並ぶ、EUにとっては米国と交渉中のTTIPと並ぶ「メガFTA」の一つとなることを目指したものです。

交渉は、2014年4月には物品の関税引下げオファーが、さらに7月には投資、サービス分野の自由化のオファーが交換され、本格化されました。しかしながら、交渉分野としても、物品、サービス、知的所有権、政府調達、投資ルール、非関税障壁ということで、TPPより範囲が限られており、また、日本側としては、TPP交渉が先行しており、この枠を出ない対応にならざるを得ない状況となっていたと思われます。また、交渉は、交渉官レベルで積み重ねられており、双方とも具体的な内容を公表しないということで不透明なところがありますが、EU側の関心は、チーズ、豚肉、ワインの市場アクセス改善と地理的表示(GI)の保護、地方公共団体・鉄道の調達(政府調達)の拡大、自動車、加工食品、医薬品等の基準認証に関する非関税措置、日本側の関心は、EUの工業品の関税撤廃、特に自動車の10%関税、電子機器の14%関税の撤廃、日本側の投資企業に対する欧州側の規制問題等で、これらに集中して交渉が行われたようです。

双方は、2016年中の合意を目指していましたが、12月12日から16日までの交渉会議で終着点が見出せず、再度来年1月に会合を持つこととなったと発表されました。EU側の記者会見によれば、残る重要問題は、日本のチーズ、豚肉の市場アクセスとEUの工業品の関税だったようです。EU側は、日本のチーズ、豚肉問題の対応によって自動車、電子機器の関税引き下げに応ずる準備はあるとのことで、また、EU側交渉官によれば、豚肉では、「前進があった」とされています。双方とも、グローバリゼーションのモメンタムを維持するためにも、何とか米国のトランプ大統領の就任式(1月20日)前に決着を図りたい意向があるようで、1月の交渉、その直後にでも閣僚交渉を行っていく構えのようです。もし、この機会を失するとフランス、ドイツの選挙、3月には、英国離脱の通告が予想されているため、これも漂流せざるを得なくなるのではないかと言われています。

<参考リンク>
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(外務省ホームページ)
年内の大枠合意難しく(日本経済新聞、12月17日朝刊)
日欧EPAに時間の壁(日本経済新聞、12月18日朝刊)
日欧EPA年内大枠合意見送り(日本農業新聞、12月18日)

 

( 文責:森 麻衣子)

 

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