海外農林業情報 No.13(2012 年10 月29 日)
米国の農業法をめぐる問題について
米国議会が、新しい5年間の農業法を現在の2008 年農業法が失効する9月末までに成立させられなかったことに関し、USDA(米国農務省)ビルザック農務長官は10 月1日に次のような主旨の声明を出しました。
「2008 年農業法により、2012 年9月30 日まで多くのプログラムと政策権限が米国農務省に与えられていた。これらは農産物およびその価格支持、保全措置、研究、栄養、食料安全、農業貿易を含む、何百という米国民に影響を与える多数の重要プログラムに関するものである。今日をもって、これらのプログラムの多くを遂行する農務省の権限および資金が失効することとなり、米国人の職の12 分の1を支える米国農業の強化を助け、農村経済の発展を図るための農務省の政策手段を非常に限られたものにしてしまった。
また、その他のプログラムのための権限と資金もこれから数ヵ月内に効力を失ってしまう。下院で、数ヵ年にわたる新しい農業法に関する動きがない限り、農村社会はこの苦しい時期にさらなる負担を背負い、かつ不透明感に捕らわれることとなる。」
9月30 日に2008 年農業法が失効し、新しい農業法も成立しなかったため、恒久法である1938 年および1949 年の農業法に戻ることとなるようです。ただし、耕種作物については、来年の収穫期までにプログラムができていればよいようで、また、穀物価格上昇に対するセーフティネットは、現在の穀物価格がすでに高水準にあるため、当面は問題にならないと見られます。また、保全措置及びフードスタンプ(生活保護の一端として貧困者に支給される食料購入券)に関しては、別途の根拠があり、かつ、未払いのための予定資金があるため、現状が維持されるようです(単価等は据え置き)。なお、酪農に関しては、乳製品の買上げおよび輸出奨励に係るプログラムが2012 年12 月まで有効とされる一方で、生乳の価格と目標単価との差額を元に直接支払いを行うプログラムは9月30 日に失効しています。
新しい農業法をめぐっては、厳しい予算上の制約のもと、それぞれのプログラムをどのように組み立てるかが最大の問題とされ、また、生活保護者に対するフードスタンプの削減幅をめぐっても、上院と下院、民主党と共和党との間で意見の相違があったことが、決定に至らなかった大きな原因のようです。
食料価格高騰を踏まえたFAO の閣僚級会合について
10 月15 日から20 日にかけてローマで開催されたFAOの世界食料安全保障委員会(CFS)と平行する形で、16 日に食料価格乱高下に関する閣僚級会議が開かれました。背景には、農業市場情報システム(AMIS)の現議長国である米国が、最近の食料価格の高騰を踏まえた閣僚級会合を開催するという元議長国フランスから出されていた提案に対し、不必要との声明を出したことから、フランスとFAO が協議を行い、今回の開催に至ったという経緯があります。
会議の参加国は137ヵ国にのぼり、主としてヨーロッパ各国、アフリカ諸国、中南米(ブラジル等)約20 ヵ国から閣僚の出席があり、日本からは郡司農林水産大臣が出席しました。他方、米国、カナダ、オーストラリア、ロシア、ウクライナ、中国等主要な食料輸出国からの閣僚の出席はありませんでした。これらの国は、バイオ燃料の規制や穀物輸出制限に対する議論を懸念したといわれています。
会合では、どのように市場の透明性を増大させるか、どのように国際的行動の協調を高めるか、どのように食料需要の増大に対応するか、および、どのように最も弱い立場にある人々に対する食料価格の影響を小さくするかについて議論がなされ、国際社会が協調して取り組むことの重要性が確認されました。
参考リンク
・2008 年農業法の権限失効に関するビルザック農務長官の宣言(USDA)
・米国の農業政策(農林水産省、日本語)
・G20 calls off emergency food meeting(Financial Times、英語、無料購読登録必要)
・FAO は食料安全保障のガバナンスの強化を要請(FAO、日本語)
・食料価格乱高下に関するFAO 閣僚級会合の結果概要(農林水産省、日本語)
(文責:西野 俊一郎)