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『海外農林業情報』No.4

『海外農林業情報』No.4(2012年2月28日号)

 

米国とEU の間の新しい貿易協定の動き

昨年11 月28 日に開かれた米国とEU の首脳会議の結果に基づき、カーク米国通商代表部(USTR)代表と欧州委員会貿易担当デ・グフト委員の主導のもと、米・EU 大西洋経済委員会(US-EU Transatlantic Economic Council)は「雇用と成長」に関するハイレベル・ワーキンググループを設立しました。このワーキンググループでは、貿易と投資を増大させる政策や措置の検討を求められており、関税等の貿易障壁や、「もの」や「サービス」の貿易および投資に関するバリヤー(障壁)が課題とされます。

今後、両者間の貿易協定をも含む政策について検討し、6月に中間報告、年末までに最終報告として提出される予定です。ここで提案される政策は、FTA やEPA に近いものになるのではないかと伝えられています。本件に関してUSTR は2月3日までに米国内からのパブリックコメントを求め、その結果、様々な業界団体から約40 の意見が寄せられました。

米国の農業団体は全体として、この動きに対し、農業分野が除外される可能性について懸念を示しているようです。

 

米国ファーム・ビューロー(American Farm Bureau Federation)はEU と米国の間の農業全体にわたる問題を指摘しています。具体的には、食肉産業の成長ホルモンや動物用医薬品の使用制限、特定のトウモロコシやダイズなどのバイオテクノロジー生産物の承認手続き、鶏肉の病原体低減(減少)を目的とした化学的処理、ワインにおける伝統的表現を用いたラベル表示、中南米産バナナの輸出時関税割当の扱いに関する問題などがあると指摘し、米国とEU の間の更なる自由貿易を目指して、関税および非関税障壁を取り除くよう求めているようです。

米国飼料産業協会(AFIA:American Feed Industry Association)は、FTA 交渉となる可能性があるならば、1つの分野(農業)が他の分野の犠牲となって外されるのは自由貿易の信条に反しており、例外品目を設けるべきではないとしています。

トウモロコシ精製協会(Corn Refiners Association)は、米国とEU の更なる貿易促進に関して、関税およびEU 規則を含めた非関税障壁をなくして自由化するべきとしています。全国牧畜業者牛肉協会(NCBA:National Cattlemen’s Beef Association)は、FTA 合意に向けて交渉を進めるならば、科学的根拠に基づいた規制や、農業分野における関税と数量割当、EU 補助金の撤廃などを求めるべきとしており、総じて、FTA に例外を設けるべきでないと主張しています。

 

上記の農業団体が示した課題などが交渉の大きな障害とみられ、米欧ビジネス委員会(European-American Business Council)からは農業を除いた工業品のみの関税撤廃を求める提言があるなど、一般産業界からは農業を除いてでも協定の早期締結を望む意見があることから、今後どのような形にまとまっていくかが注目されます。特に、農業を除いた場合、21 世紀型の協定と位置付けられているTPP との整合性がとれないという議論もあるようです。

なお、欧州委員会も、EU 内の全利害関係者に対して、冒頭のワーキンググループで話し合うべき事項に関するパブリックコメントを4月23 日まで募集しており、EU 側の意見がどのようになるかも注目されます。

 

(参考リンク)
・米国とEU 間の雇用と成長に関するハイレベル・ワーキンググループに対するパブリックコメントの募集について: USTR, 欧州委員会
連邦官報利用ウェブサイト(米国パブリックコメントの検索・閲覧が可能)
・米国とEU の首脳会議における共同声明: 米国, EU

 

(文責:西野 俊一郎)