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『海外農林業情報』No.73

海外農林業情報 No.73 (2017年7月12日


日・EU経済連携協定(EPA)大枠合意
 

1.7月6日の日・EU首脳会談において、4年間にわたって続けられた日EU間のEPA交渉に決着がつけられ、大枠合意が公表されました。5月からの連続した交渉官折衝、さらに6月末から7月5日までの精力的な閣僚折衝を踏まえたもので、両者の並々ならぬ自由貿易体制維持への意欲を表すものと受け止められているようです。これまで、日米欧で引っぱってきた世界の自由貿易体制でしたが、トランプ政権になった途端に、TPP協定からの離脱、TTIP(米・EU貿易投資連携協定)交渉のとん挫という形で、リーダーであるべき米国が保護主義的な動きを示しはじめ、また、欧州では英国のEU自由貿易体制からの離脱の動きもあり、日、EUともに自由貿易体制への懸念が高まったことが、この協定交渉を加速したと思われます。

 この協定は、モノの関税、投資、サービス、政府調達等の個別の分野にとどまらず、ルールの分野で幅広いものとなっています。ルールは、TPP協定を踏まえたものが多く、世界の貿易ルールの標準となるようなものとなっていますが、いくつかについてまだ両者の合意には至らなかった部分があるようです。また、関税の分野では、EUの自動車およびその部品、電気機器、日本の加工食品、肉類、チーズ、ワイン等の交渉が難航したようです。


2.このうち我が国の農林水産物に関する直接の合意の概要は次の通りです。

〇 関税に関しては、撤廃率が82%とほぼTPPと同じ水準で、内容も同様ですが、米麦、乳製品等に関して特別取り決めがあります。

・米については削減・撤廃から除外する。

・麦については現行の国家貿易制度は維持し、その中で、SBS(売買同時入札)制度として少量のEUの関税割当枠を設定する。また、麦芽に関しては、現行の関税割当制度の下で、EU枠(枠内税率:無税)を設定する。

・豚肉について差額関税制度を維持するとともに、関税削減期間を10年とし、同時に輸入急増時の特別セーフガード措置を設ける。

・牛肉について16年目の関税を9%に引き下げるとともに、輸入急増時の特別セーフガード措置を設ける。

・脱脂粉乳・バター等について国家貿易の原則を維持したうえで民間貿易によるEU枠を設定する。

・チーズについて、ソフト系チーズ(カマンベール等)の関税割当枠(枠内税率は段階的に引き下げ16年目に無税とする)を設定する。その数量は、初年度20千トン、16年目31千トン、その後は国内消費の動向を考慮して決める。また、熟成ハード系チーズ(チェダー、ゴータ等)やクリームチーズ(乳脂肪45%以下)については16年目に関税を撤廃する。なお、プロセスチーズ原料用チーズの国産との抱き合わせ関税割当制度(無税枠)は維持する。

・砂糖・でん粉について、現行の糖価調整制度を維持するとともに、粗糖・精製糖に関し新商品開発のための試験輸入枠(無税・無調整金)を設け、でん粉に関してEUへの関税割当枠を設ける。

・加工食品のうち、パスタ(マカロニ、スパゲッティ)、チョコレート菓子、キャンディーは11年目、ビスケットは6-11年目に関税を撤廃する。

・ワインについては、関税を即時撤廃するとともに、清酒、焼酎等については、11年目に撤廃する。

・林産物のうち、構造用集成材、SPF製材等の10品目は段階的削減を経て8年目に関税を撤廃する。

・水産物のうち、海藻類(のり、こんぶ等)は削減撤廃から除外するとともに、アジ、サバ等は16年目に関税を撤廃する。


 〇衛生・動植物検疫(SPS)措置については、TPPと同様、WTOのSPS協定の権利・義務を再確認するとともに、手続きの透明性向上、技術的協議の開催等の規定を新たに設けることとしています。


 〇また、新たに農業協力の規定を設け、農林水産品・食品等の輸出入を促進するための特別 委員会を設けるとともに、安全で良質な農林水産品を提供するために高度な生産を行っている日EU間の農林水産分野における協力に関することを規定することとしています。


 〇なお、EU側の輸入制限に関し、牛肉、茶、水産物、酒類等の輸出重点品目をはじめほぼ すべての品目で関税が撤廃(ほとんどが即時)されるとともに、日本ワインの醸造方法規制の証明を撤廃することとなります。


3.2以外の市場アクセスに関し、工業品の関税については、日本側は、96.2%の発効時無税を含め最終的に100%の撤廃(バッグ、革靴等の皮革製品は11年目または16年目)となり、EU側は、81.7%が発効時無税となり、最終的に同じく100%撤廃となります。EUの関税に関しては、乗用車、自動車部品、一般機械、化学工業製品、電気機器が争点でしたが、乗用車は8年目で撤廃、自動車部品、一般機械、化学工業製品、電気機器ではそれぞれ92.1%、86.6%、88.4%、91.2%が即時撤廃、関税が残るものもテレビの6年目に撤廃等ほとんどが6年目までに撤廃されることとなっています。また、サービス、投資に関しても、TPPと同様、WTO協定のポジリスト方式とは反対に、原則自由とし、自由化しないものをリストアップするいわゆるネガリスト方式としています。さらに、政府調達に関しては、WTO政府調達協定(GPA)を基本としつつ、日本側は都道府県・政令指定都市の地方独立行政法人等に、EU側はフランス等13の加盟国の調達機関に対象を拡大する等の改善が行われています。鉄道分野の調達に関して、GPA上対象外としてきたものについて、日本側が運転上の安全に関連する調達を、EU側が車両を含む鉄道関連品の調達をそれぞれ双方に開放することとされています。


4.ルールとしては、2および3を含めて、24の項目の協定になるようです。貿易救済(いわゆるセーフガード)、原産地規則、税関・貿易円滑化(通関手続)、技術的障害(TBT)、投資ルール、電子商取引、国有企業、知的財産、環境・労働等(持続可能な開発)が含まれておりますが、ほとんどTPP協定と同様のものとなっており、先進国間では、これらが貿易ルールとして確立されていく傾向がうかがわれます。しかし、今回の大枠合意では、投資ルールに関して、投資家と国家の紛争解決(ISDS)について、今後協議を続けていくとされており、まだ合意に至っていないようです。また、知的財産に関しては、そのうちの農産品と酒類の地理的表示について日、EU双方の具体的名称を保護することが約されております。農産品は、EU側の「カマンベール・ド・ノルマンディ」等71、日本側の「夕張メロン」、「神戸牛」等31、酒類は、EU側の「シャンパン」、「ボルドー」等139、日本側の8の名称となっております。


5.今後は、大枠合意に従って詳細な詰めを行い、協定条文にまとめ上げる作業に入りますが、このような大部の協定では通常3-4ヵ月必要とされており、日EUとも年内には署名に持ち込みたいとしているようです。また、EU側では、関税の部分を除き、加盟各国の同意が必要で、このための期間として1年程度は必要と考えられており、大枠合意後、ユンケル委員長は、「2019年初めには発効させたい」と述べたようです。日本側も、国会の批准承認手続きが必要で、2019年には発効させたいとしています。これでTPP並みの95%を超える品目で関税が撤廃され、サービス、投資ではネガリスト方式の自由化が約され、貿易ルールでもWTOを越える範囲の、さらに進化したものが定められることとなり、一つの世界標準が確立されることとなります。


 6. このEPAに加えて、日豪、日墨EPAにより、米国の牛肉、豚肉、乳製品は、日本市場で不利な立場に立つこととなるため、米国の関係団体は政府に圧力をかけ、日米FTAの早期交渉を要求していくものと考えられます。この米国からの要求に対しては、日本側としては、TPPへの米国の復帰を促しつつ、TPPでの譲歩を越えることはできないとしていくこととなると思われます。

 

<参考>主要関心品目の現行関税率一覧(PDF)

 

文責:森 麻衣子

<参考リンク>

日欧EPA 19年発効へ(日本経済新聞、7/7付朝刊) 

日EU・EPA 農林水産物の大枠合意の概要(農林水産省) 

第24回日EU定期首脳協議(外務省) 

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