海外農林業情報 No.70 (2017年4月13日)
米国農務省による穀物需給見通し
4月11日、米国農務省(USDA)は2016/17年度の穀物を中心とした世界の農産物の需給見通しを発表しました。北半球の冬小麦の生産状況が確定し、南半球のトウモロコシおよび大豆の生産が終了していることから、2017年度の期初在庫の見通しが確定し、さらに、3月末にUSDAから公表されたトウモロコシおよび大豆の作付意向調査(「Prospective Plantings」)で米国の生産見通しが発表されたことから、今年から来年にかけての需給状況について、ある程度予想できることとなります。見通しは次の通りですが、今後は米国での天候が注目されることになります。
(1)小麦
2016/17年度の世界の小麦供給量は、期初在庫が多く、かつ生産量の増加が見込まれることから、170万トンの増加が予想されます。
小麦輸出は、オーストラリア、カナダ、カザフスタンおよびウクライナでそれぞれ50万トン減少しますが、EUとウクライナでの増加があり、世界全体では30万トンの減少と予想されます。
消費は、米国での減少が主因となって、世界全体では60万トン減の7億4,080万トンになるとみられます。供給が増加し消費が減少することから、世界の期末在庫は230万トン増の2億5,230万トンになると見込まれます。この在庫が、2017/18年度の主要な供給源となります。
(2)トウモロコシ
2016/17年度の世界全体の粗粒穀物生産は13億4,610トンと推定されます。このうち、ブラジルのトウモロコシは、特に中西部と北部で作付面積が拡大し、生産増加が見込まれます。アルゼンチンでも、面積当たりの収量が良く、生産増加が見込まれます。また、パラグアイ、エクアドル、ロシアでの減産はありますが、メキシコ、インドネシア、パキスタン、南アフリカの主要生産国で増加となります。これを受けて、期末在庫は主にメキシコ、ブラジル、インドネシア、アルゼンチンで大きく増加するとみられます。
この期末在庫見通しに、これからの米国を中心とした北半球の生産が加わって、2017/18年度の供給となります。3月に発表された米国の作付意向調査では、2017年のトウモロコシの作付面積が4%減少と予想されています。これは、中国政府が飼料用のトウモロコシかすに反ダンピング課税を適用したことにより、中国の米国からの輸入が大幅に減ると見通され、米国の農家の作付けがトウモロコシから大豆にシフトしたことによるものといわれています。
(3)大豆
2016/17年度の世界の油糧種子生産量は、主にブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、アルゼンチンにおける大豆生産の増加により、540万トン増の5億6,340万トンになると予想されます。その結果、世界の大豆輸出は220万トン増加し1億4,330万トンに達するとみられ、輸入では、中国とEUの増加が見込まれます。大豆の期末在庫は前年より1,030万トン多い8,740万トンになると予想されます。今後は、米国の生産が加わりますが、トウモロコシの作付面積減の分が、大豆にシフトすることとなり、2017年は作付面積が7%増となっています。
(4)コメ
2016/17年度のコメ供給は、主にインドネシアで生産増が見込まれることから、世界全体で80万トンの増加が予想されます。パキスタンでは20万トンの生産増、ミャンマーでは10万トンの生産減が見込まれています。世界のコメ消費は、インドネシアでの消費拡大が主因となって、40万トンの増加が予想されます。全体として、供給増が消費増を上回っているため、世界の期末在庫は2001/02年度以来最大となる1億1,810トン(40万トン増)に達すると予想されます。この中で、米国に関しては、作付意向調査によると、2017年のコメの作付面積は、中粒種と短粒種がいくらか増えるものの、全体として減少が予想されています。
以上のように、今年の穀物需給は全体として緩和傾向にあると見込まれ、価格も低い水準で推移すると考えられますが、昨年のトランプ大統領当選を受けて、投機資金が穀物市場に流れ込み、ここのところの需給緩和から一挙に退出していく傾向を示したように、今後の天候いかんで価格が大きく変動する可能性もあります。
<参考リンク>
Prospective Plantings(USDA、英語)
World Agricultural Supply and Demand Estimates Report(WASDE)(USDA、英語)
トランプ相場 商品波及(2/21、日本経済新聞)
( 文責:森 麻衣子)
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海外農林業情報 No.67 (2016年12月22日)
日EU間のEPAの動き
日EU間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)は、2013年3月の首脳間合意により開始されました。これは、関税撤廃や投資ルールの整備等を通じて貿易・投資を活性化することを目指して、日本にとってはTPPと並ぶ、EUにとっては米国と交渉中のTTIPと並ぶ「メガFTA」の一つとなることを目指したものです。
交渉は、2014年4月には物品の関税引下げオファーが、さらに7月には投資、サービス分野の自由化のオファーが交換され、本格化されました。しかしながら、交渉分野としても、物品、サービス、知的所有権、政府調達、投資ルール、非関税障壁ということで、TPPより範囲が限られており、また、日本側としては、TPP交渉が先行しており、この枠を出ない対応にならざるを得ない状況となっていたと思われます。また、交渉は、交渉官レベルで積み重ねられており、双方とも具体的な内容を公表しないということで不透明なところがありますが、EU側の関心は、チーズ、豚肉、ワインの市場アクセス改善と地理的表示(GI)の保護、地方公共団体・鉄道の調達(政府調達)の拡大、自動車、加工食品、医薬品等の基準認証に関する非関税措置、日本側の関心は、EUの工業品の関税撤廃、特に自動車の10%関税、電子機器の14%関税の撤廃、日本側の投資企業に対する欧州側の規制問題等で、これらに集中して交渉が行われたようです。
双方は、2016年中の合意を目指していましたが、12月12日から16日までの交渉会議で終着点が見出せず、再度来年1月に会合を持つこととなったと発表されました。EU側の記者会見によれば、残る重要問題は、日本のチーズ、豚肉の市場アクセスとEUの工業品の関税だったようです。EU側は、日本のチーズ、豚肉問題の対応によって自動車、電子機器の関税引き下げに応ずる準備はあるとのことで、また、EU側交渉官によれば、豚肉では、「前進があった」とされています。双方とも、グローバリゼーションのモメンタムを維持するためにも、何とか米国のトランプ大統領の就任式(1月20日)前に決着を図りたい意向があるようで、1月の交渉、その直後にでも閣僚交渉を行っていく構えのようです。もし、この機会を失するとフランス、ドイツの選挙、3月には、英国離脱の通告が予想されているため、これも漂流せざるを得なくなるのではないかと言われています。
<参考リンク>
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(外務省ホームページ)
年内の大枠合意難しく(日本経済新聞、12月17日朝刊)
日欧EPAに時間の壁(日本経済新聞、12月18日朝刊)
日欧EPA年内大枠合意見送り(日本農業新聞、12月18日)
( 文責:森 麻衣子)
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