「海外農林業情報No.79」

海外農林業情報 No.79 (2017年12月26日


日EU・EPAの交渉妥結とTPP11協定の大筋合意

12月8日、安倍総理大臣とジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長の両首脳は、日EU経済連携協定(EPA)の交渉が妥結したことを確認した旨の共同声明を発表しました。これは、7月6日の首脳会議で大筋合意されていたものが、12月5日から8日までの首席交渉官交渉で細部に至るまで合意に達したものです。

日EU・EPAは、「21世紀において、スタンダードの高い、自由で、開かれ、かつ公正な貿易・投資ルールのモデルとなるものである」(上記共同声明)とされており、ものの関税、投資、サービス、政府調達等の個別分野にとどまらず、ルールの分野で幅広いものとなっております。ルールは、TPP協定を踏まえたものが多く、世界の貿易ルールの標準となるようなものとなっております。この中で、投資の個別案件に関する企業と投資先国との紛争(ISDS)に関しては、まだペンディングとなっており、切り離して引き続き協議することとされております。欧州委員会の権限上、ルールの分野では加盟各国別々の批准を要するものがあり、ISDSを含むルールの分野は、加盟各国の意見を尊重せざるを得なかったものと思われます。来年秋に予定されている署名までに間に合えば、協定の中に繰り入れられ、間に合わなければ切り離して交渉が続けられるものと思われます。

日EU・EPAでは、工業品に関しては、日本側は96.2%、EU側は81.7%が発効時に無税となり、最終的には両側とも100%の関税撤廃となります。農林水産物に関しては、日本側ではコメ、麦、畜産物等は例外扱いとされ、関税撤廃率は82%となります。一方EU側では、牛肉、茶、水産物、酒類等の我が国の輸出重点品目をはじめ、ほぼすべての品目で関税が撤廃されます。詳細に関しては、海外農林業情報第73号(7月12日)をご参照ください。

この日EU・EPAに、先日大筋合意となったCPTPP協定(包括的先進的環太平洋連携協定、いわゆるTPP11)を併せ、我が国の貿易体制は、ほぼ国際貿易協定のスタンダードの最先端に立つこととなります。今後は、中国、韓国、インドを含めたRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)、および米国との2国間のFTA交渉が予想されますが、日EU・EPA およびCPTPP協定との整合を求めて行く立場に立って、交渉をリードしていくことができる体制となったと思われます。

CPTTP協定に関しては、中心となる関税、サービス、投資、政府調達の分野では画期的な自由化を達成するものであり、また、ルールに関しても、11月の大筋合意の際に凍結された20項目は過半数が知的所有権関連であり、電子商取引等に関しては高度な国際的標準となるものです。さらに残された問題は、ISDS問題をのぞいて、特定国の4つの問題に関するもので、目指した本年中の合意とすることは時間的に無理なようです。最近の報道によれば、日本政府は、参加国の中で唯一、早期の合意に難色を示しているカナダの説得を急ぐものの、調整が不調に終わった場合はカナダを除く10ヵ国での署名も視野に入れ協定の正式合意となる署名式を、来年2月下旬から3月上旬の間にチリで行う方向で各国と最終調整に入ったとされています。

また、EU側では、英国の離脱が19年3月となっており、英国の離脱と今回の協定との関係が問題となります。12月15日のEU首脳会議では、当面2年間程度は移行期間とし、英国にEU単一市場の恩恵を認めるとされており、その間は、この日EU・EPAもそのまま英国に適用されることになるのではないかと思われますが、その後は、英国とEUの貿易関係協定が結ばれた際に日英の関係が整理される必要があるのではないかと思われます。

<参考リンク>

ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長及び安倍晋三日本国総理大臣の共同声明(外務省、12/8付)

TPP11協定の合意内容について(内閣官房TPP等政府対策本部、11/11付)

European Council (Art. 50) guidelines for Brexit negotiations(EU, 12/15付)
英と年明け通商協議 EU、まず移行期間議論へ(日本経済新聞、12/16付)
新TPP、2月にも署名で調整…カナダ説得急ぐ(読売新聞、12/22付)

 

文責:藤岡 典夫
 

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海外農林業情報 No.67 (2016年12月22日)


日EU間のEPAの動き
日EU間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)は、2013年3月の首脳間合意により開始されました。これは、関税撤廃や投資ルールの整備等を通じて貿易・投資を活性化することを目指して、日本にとってはTPPと並ぶ、EUにとっては米国と交渉中のTTIPと並ぶ「メガFTA」の一つとなることを目指したものです。

交渉は、2014年4月には物品の関税引下げオファーが、さらに7月には投資、サービス分野の自由化のオファーが交換され、本格化されました。しかしながら、交渉分野としても、物品、サービス、知的所有権、政府調達、投資ルール、非関税障壁ということで、TPPより範囲が限られており、また、日本側としては、TPP交渉が先行しており、この枠を出ない対応にならざるを得ない状況となっていたと思われます。また、交渉は、交渉官レベルで積み重ねられており、双方とも具体的な内容を公表しないということで不透明なところがありますが、EU側の関心は、チーズ、豚肉、ワインの市場アクセス改善と地理的表示(GI)の保護、地方公共団体・鉄道の調達(政府調達)の拡大、自動車、加工食品、医薬品等の基準認証に関する非関税措置、日本側の関心は、EUの工業品の関税撤廃、特に自動車の10%関税、電子機器の14%関税の撤廃、日本側の投資企業に対する欧州側の規制問題等で、これらに集中して交渉が行われたようです。

双方は、2016年中の合意を目指していましたが、12月12日から16日までの交渉会議で終着点が見出せず、再度来年1月に会合を持つこととなったと発表されました。EU側の記者会見によれば、残る重要問題は、日本のチーズ、豚肉の市場アクセスとEUの工業品の関税だったようです。EU側は、日本のチーズ、豚肉問題の対応によって自動車、電子機器の関税引き下げに応ずる準備はあるとのことで、また、EU側交渉官によれば、豚肉では、「前進があった」とされています。双方とも、グローバリゼーションのモメンタムを維持するためにも、何とか米国のトランプ大統領の就任式(1月20日)前に決着を図りたい意向があるようで、1月の交渉、その直後にでも閣僚交渉を行っていく構えのようです。もし、この機会を失するとフランス、ドイツの選挙、3月には、英国離脱の通告が予想されているため、これも漂流せざるを得なくなるのではないかと言われています。

<参考リンク>
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(外務省ホームページ)
年内の大枠合意難しく(日本経済新聞、12月17日朝刊)
日欧EPAに時間の壁(日本経済新聞、12月18日朝刊)
日欧EPA年内大枠合意見送り(日本農業新聞、12月18日)

 

( 文責:森 麻衣子)

 

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