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『海外農林業情報 No.92』

海外農林業情報 No.92 (2018年12月4日

 目 次
【世界の貿易関係の動向】米中首脳会談と日本の貿易交渉
【海外協力案件の紹介】JICAコートジボワール国国産米振興プロジェクト

 

 

【世界の貿易関係の動向】米中首脳会談と日本の貿易交渉


米中関係
12月1日、米中首脳会談が開催されました。すでに本誌のNo.91にてご紹介しましたように、米国は、知的財産侵害を理由とする301条関連で、7月に第1弾の340億ドル、8月に第2弾の160億ドル分に追加関税(+25%)を発動し、9月に第3弾の2,000億ドルの中国産品に対する追加関税(+10%)を発動しました。これで計2,500億ドルに追加関税が課されており,対中全輸入額約5,000億ドルの半分に追加関税がかかっています。これに対し中国も、報復として米国産品対米輸入額全体約1,500億ドルの7割超に追加関税をかけています。トランプ大統領は、上記2,000億ドル分の追加関税(+10%)について来年1月に25%に引き上げること、さらに、米中首脳会談で貿易問題に進展がなければ、新たに2,670億ドルに追加関税をかける第4弾を発動する(その結果、中国からの輸入額のすべてが対象となる)との考えも表明していました。このように米中の貿易戦争がエスカレートしてきた中での今回の首脳会談でした。

結果は、報道によると、(1)米国は年明けに予定していた追加関税の引上げと対象品目の追加を90日間猶予する、(2)米中は、知財保護、技術移転の強要、サイバー攻撃、非関税障壁、サービスと農業の市場開放の5分野で協議を開始し、90日間で合意できなければ、米国は追加関税引き上げを発動する。(3)中国は、対米黒字を減らすため、大豆等の米国産農産物、エネルギー、工業品等を大量に購入することなどで合意したとのことです。協議分野に関し、中国経済体制の核心に触れる国営企業、産業補助金が外れていることは注目されます。

このように貿易戦争のさらなる激化は避けられましたが、これまでに発動された追加関税はそのままですし、これから開始される上記5分野の協議も容易ではなく、今回の合意は一時休戦に過ぎないといわれています。

TPPと日欧EPAの発足と日米TAG交渉
米国トランプ政権が保護貿易政策を推し進める中で、我が国が主導したTPPが、12月30日に米国抜きの11ヵ国により発効することとなりました。

11月20日-21日に開催されたTPP11首席交渉官会合において、TPP委員会の初会合を1月中旬または下旬に開催することを軸に調整することとされました。また、(1)TPP委員会では議長国のローテーション、新規加入のプロセス、紛争処理関係の手続規則等について閣僚レベルで決定すること、(2)新規加入のプロセスについては、加入希望の通知を受け、TPP委員会でWG立ち上げを決定、WGで交渉した後、加入の是非を委員会決定、とすること、(3)タイを含め、実際の加入希望があった場合の対応はTPP委員会で判断すること、等が議論されました。TPPには、タイ、英国が加盟意向を示しており、その他のアジア諸国も関心を示してくることが考えられます。

日欧EPAも、双方の批准手続きが12月末までに終わる見通しが立っており、双方の批准手続きを終えた翌々月の1日に発効するとの規定があることから、来年2月1日の発効が予定されます。

これにより、日本市場での米国農産物が不利な立場に立つため、米国としては1月から予定されている日米TAG交渉の早期妥結を求めてくると思われます。また、日本側も、TPP諸国、EU各国の農産物が、我が国市場で米国より不利となるような協定を結ぶわけにはいかなくなると思われます。

RCEP
一方、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)については、交渉参加16ヵ国による閣僚会合が11月12日、それに続いて首脳会議が11月14日にシンガポールで開催されました。日本からは安倍首相が出席しました。RCEPは年内妥結を目指していましたが、結果としては、2019年に早期妥結することを盛り込んだ 「共同首脳声明」が採択されたにとどまりました。関税撤廃や知的財産権保護などのルール作りで参加国の隔たりが埋まらなかったようです。しかし、同声明によれば、18ある交渉分野のうち、2017年末までに合意された「経済技術協力」「中小企業」に加え、2018年中に「税関手続き・貿易円滑化」「政府調達」「制度的事項」「衛生植物検疫措置(SPS)」「任意規格・強制規格・適合性評価手続き(STRACAP」)の5章が妥結されました。また声明では、「交渉は最終段階に進んでおり、包括的で質の高い、互恵的な経済連携を2019年に妥結する決意だ」としました。首脳会合で安倍首相は「保護主義的な動きが高まりつつある中、RCEPの重要性は高まっている」と強調しました。

(文責:藤岡 典夫)

<参考リンク>
Statement from the Press Secretary Regarding the President’s Working Dinner with China(ホワイトハウス プレスリリース、12/1)
米、対中追加関税を猶予 90日間 構造改革条件に(日本経済新聞、12/3)
TPP首席交渉官会合結果概要 (内閣官房TPP等政府対策本部)
RCEP首脳会議の開催(外務省)
 

JICAコートジボワール国国産米振興プロジェクト

 

はじめに
西アフリカに位置するコートジボワール共和国(以下、コートジボワールとする)は、東にガーナ、北にブルキナファソ、マリ、西にギニア、リベリアと国境を接し、南は大西洋に面しています(図1)。国土の大部分が熱帯モンスーン気候区に属し、南部の平均降水量は1600-2200mm、月平均気温25.0-28.3℃といった恵まれた自然環境により農業生産のポテンシャルは高く、農業はGDPの27%を占め、労働人口の3分の2が従事している基幹産業です。生産される食用作物はヤムイモ、キャッサバ、コメ、料理用バナナ、トウモロコシと多彩ですが、この中でコメだけが輸入に依存しており、2013年当時の国内供給量251万t(籾換算)に対し、53%にあたる134万t(籾換算)を輸入していました(図2)。

図1 コートジボワールの位置とプロジェクト対象地域図2 コメ需給データ(2013) 出典:FAOSTAT(2018/10/22アクセス)



この背景には急速な人口増加および都市部における消費の著しい増加があるといわれており、コメ国内供給量は1961年の21万t(籾換算)と比較すると10倍以上に増加しています。一方で、2013年当時の国内生産量は193万tに留まっています。この原因として、政治的な混乱の影響に加えて、(1)優良種子の供給体制や普及サービスが行き届かず、国産米の生産性が低く留まっていること、(2)作付準備金の不足等から耕地が有効利用されず土地利用率が低いこと、(3)収穫後処理における脆弱な設備・技術・マネージメント能力が原因で、十分な品質・量を市場に提供できていない状況にあること等が挙げられます。こうした中、経済首都アビジャンをはじめとした大都市において、コメ市場の大部分は輸入米で占められるようになっており、結果として、国産米の生産地から都市部消費地への流通ネットワークも弱体化し、国産米流通の一層の制約要因となっています。

このような背景に基づき、コートジボワール政府は国産米振興を目的とした技術協力を日本政府に要請し、同要請を踏まえて独立行政法人国際協力機構(以下、JICAとする)は2013年8月に詳細計画策定調査団を派遣し、プロジェクトの枠組みを決め、本技術協力プロジェクト「コートジボワール国国産米振興プロジェクト」が発足しました。

1.協力期間
本プロジェクトは2014年2月‐5ヵ年の計画で始まりましたが、2018年7月に実施された終了時評価調査団による提言を踏まえて、2020年3月まで、約1年間の延長が決定されています。

2.プロジェクトの対象地域
上記図1にも示したとおり、コートジボワールの中央に位置するベリエ州(ヤムスクロ特別自治区を含む)とベケ州が対象地ですが、国内最大の消費地であるアビジャン特別自治区も国産米のプロモーションには重要な場所と位置づけています。

3.プロジェクトに関わるアクター
コートジボワール側のプロジェクト責任機関はMINAGRI(農業省、現MINADER/農業農村開発省)といい、わが国の農林水産省に相当する行政機関です。
また、日本側の実施機関はJICAですが、現地に派遣される日本人専門家を含むプロジェクトの実施・運営はJICAより契約委託された民間企業であるNTCインターナショナル株式会社(以下、NTCIとする)と公益社団法人国際農林業協働協会(以下、JAICAFとする)の共同で実施しています。
なお、本プロジェクトの直接的受益者は、上記プロジェクト対象地域内の生産者および精米業者ならびに流通業者です。
 
4.プロジェクトの目標
プロジェクト実施期間中に達成される目標は、対象農家におけるコメ販売量が増加することですが、将来的に達成されることが期待される上位目標は上記2.にも示した対象地域(ヤムスクロ行政区、ベリエ州、ベケ州)で生産されたコメの販売量が拡大することです。

5.目標を達成するために期待される成果
上記3.の目標を達成するためには下記4つの成果が期待されており、それぞれの成果を達成するために日本人専門家が派遣され、コートジボワール側のカウンターパート(以下、C/Pとする)とともに活動しています。
成果1:バリューチェーン関係者の連携が強化される。
成果2:対象グループにより、研修を通じて得られた知識・技術が活用される。
成果3:研修の成果を適用するうえで必要な生産要素(クレジットや優良種子など)が供給される。
成果4:ステークホルダーによる国産米振興に関する取り組みが加速される。

6.具体的な活動例
1)成果1にかかる活動―バリューチェーン関係者の連携強化―
ヤムスクロ特別自治区およびベリエ州ならびにベケ州における稲作関係者(生産者、精米・販売業者等)の対話を促進し、ネットワークを構築するためのプラットフォームを設置・運営しています(写真1、2)。
また、ネットワークの構築・強化の一環として、精米業者や生産者組織を通じた種子・肥料のクレジットによる提供、収穫後に返済を行う仕組みを試行しています。この活動によって生産者は確実に種子・肥料を入手し、コメの生産量を増やし、精米業者は生産者からの十分な籾を確保できることとなることから、市場への流通量(販売量)も増加することが期待されています。

2)成果2にかかる活動―研修で得られた知識・技術の活用―
受益者に対する研修を実施するとともに、同成果の発現を確認するためのモニタリングを実施しています。同研修内容は、主として普及員に対する稲栽培技術研修、生産者組織に対する稲作現場研修および組織運営研修、精米・流通業者に対するビジネス管理研修等です(写真3、4)。
 

写真1 プラットフォーム参加者 写真2 説明するC/P写真3 稲作技術研修にかかる田植え実習写真4 民間業者を活用した耕うん機操作研修

 

3)成果3にかかる活動―研修成果を適用するために必要な生産要素の供給―
前述した成果2の研修受講者のうち、モニタリング結果のよい受益者に対して追加支援を実施しています。支援内容については、モニタリングの結果を分析のうえ決定することとしていますが、主に耕うん機、脱穀機等コメ生産資機材の貸与、クレジットによるインプット(種子、肥料、農薬)の提供、稲種子生産技術研修の実施等です(写真5、6)。
なお、これらの活動は、持続性の観点から財政的、技術的にコートジボワールの政府負担により実施可能な活動内容に配慮されています。

4)成果4にかかる活動―国産米振興に関する取り組みの加速―
アビジャン特別自治区およびヤムスクロ特別自治区等への国産米販売量の増加を目指した販売促進活動を実施しています(写真7、8)。なお、今後は同アプローチの取りまとめを通じた政策提言を行うこととしており、コートジボワール政府による予算の持続的配分を含めた、より大きなインパクトの発現を目指しています。

 

写真5 JAICAF派遣専門家による稲種子生産研修写真6 異品種調査実習(同左)

写真7 国産米のプロモーションにかかるトラック・キャラバン

写真8 国産・輸入米の食味試験(同左)

 

7.実施・運営上の課題
上記6.のように淡々と記述すると問題なく順調にプロジェクトは進捗しているように思われるかもしれませんが、問題も課題もなければ技術協力の必要はなく、ご多分に漏れず本プロジェクトは多くの課題を抱えています。以下に、JAICAF所属の日本人専門家が遭遇した主な課題を列記します。

1)普及員
6.2)成果2にかかる活動に前述したとおり、本プロジェクトでは普及員を主な対象として稲作技術研修を実施し、同研修の成果を生産者に対して指導する「現場研修」を実施・運営することとしていましたが、彼らは稲作を専門としているわけではなく、あらゆる食用作物あるいは換金作物の生産支援を使命としているので、普及員自身の専門性・バックグランドに濃淡があり、現場研修自体にやる気満々で臨む普及員とそうでない普及員に分かれます。また、普及員は生産者の近くにいるものの、常に対応しているわけではないので、過大な期待は望めません。

2)農業機械
生産者が利用できる農業機械は限定的で、資金不足でレンタルできない、レンタル先がない、借りられたとしても作期のタイミングに合わないなど、稲作生産に十分貢献できていない例が多く見受けられます。

3)生産者組合
6.3)成果3にかかる活動に前述したとおり、本プロジェクトではクレジットによるコメ生産資材(種子、肥料、農薬等)の提供を企画・運営していますが、生産者組合自体が有名無実であったり、生産者の返済義務をないがしろにしたりと、個人でもグループでも農業経営のあり方、重要性を軽視する傾向が強いように感じられました。

4)稲種子
コートジボワール国内で流通する稲種子(低発芽率、異品種混入、種子病害等)に多くの生産者は不満を抱いています。6.3)成果3にかかる活動に前述したとおり、本プロジェクトでは、適正な種子生産の実践に向けて選抜した生産者を訓練し、さらに選抜した生産者圃場に供給するための優良種子生産において優良な生産者を支援することが有用であることを見出しました。しかし、均質で混じりがなく、発芽率の高い、高品質でかつ十分な量の種子を得るためには、注意しなければならないいくつかのポイントがあるが、残念ながら同国における種子生産システムは十分に機能していません。

おわりに
1960年の独立以降、安定的な政権運営の下、カカオ、コーヒー、天然ゴム等の輸出や運輸交通・貿易により高い経済発展を遂げ、地域の経済大国となったコートジボワールでしたが、1990年代後半に始まった政治的混乱は2002年に内戦へ発展し、国が南北に分断される事態となりました。2010年の大統領選後再び内戦化し、翌年最終的に武力による終結を見せ、その後、一連の民主化プロセスを経て、情勢および国の経済状況は回復の兆しを経て、現在は順調な発展を見せています。わが国は1990年代以降、コートジボワールの農業・農村開発支援を行っており、1992年以降は稲作への支援を強化してきましたが、上記の内戦を受けて2002年11月以降は協力を中断していました。2011年11月にわが国は二国間協力の再開を決定し、本プロジェクトが再開後最初の技術協力プロジェクトです。冒頭で触れたとおり、同国は恵まれた自然環境によって農業生産のポテンシャルは非常に高いのですが、残念ながらそのアドバンテージが稲作に十分活かされていないように見受けられます。おそらく、技術協力の成果を見るにはまだまだ長い年月がかかることでしょう。
 

(文責:小林裕三) 

 

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