『海外農林業情報』No.35

海外農林業情報 No.35 (2014年10月2日


TPP交渉の最近の動きについて

9月1-10日にベトナムのハノイにて首席交渉官会合を含めた交渉会議が開かれました。この交渉会合では前回の7月交渉で、日米間の交渉内容が不明確のままでは各国とも前進が図れないとし、日米間の交渉内容を明確化するということが求められていました。このため、日米間で8月にも精力的に交渉が行われましたが前進が見られず、9月の交渉会合でも非常にあいまいな形での報告しかなされませんでした。
このような状況から、9月会合でもほとんど前進が図れない状態となりましたが、いくつかの問題については政治レベルでの決着を図るための選択肢を模索するということが行われたようです。しかしながら、9月の首席交渉官会合の後のUSTR(米国通商代表)の報告では、SOE(国有企業)、知的財産、投資、原産地規則、手続きの透明性と汚職防止、労働に関して重要な前進が図られ、また、二国間のもの、サービス、投資、金融サービス、政府調達の問題についても、意欲的なパッケージに向けての動きが見られたという公表をしています。
伝えられるところによれば、SOEについて定義をどうするか(利益が少ない小型SOEについては例外とするかどうか)、また、個別国ごとの開発途上国へのルールの適用について、例外をどう扱うかということが問題点とされているようです。
医薬品の知的財産に関しては、途上国に対して、例えばHDI(人間開発指数)を用いた分類といった一定基準を定め、開発途上国のレベルに応じてルールの適用猶予を定める方向で話し合われているようです。また、労働問題については、開発途上国の例外取り扱いの問題のほかに、米国とカナダの間で、地方、州政府へのルールの適用をどうするかという問題が残っていると言われています。
しかしながら、基本的には日米間の交渉の前進が見られないということで、各国ともこれらの問題を詰め切れないという状況のようです。

この9月の全体交渉会議を受けて、日米間で9月23日-24日にかけて甘利経済財政・再生大臣とフロマンUSTRとの間で、政治レベルでの交渉が行われましたが、とくに牛肉、豚肉、乳製品についての問題で前進が図れなかったと伝えられています。フロマンUSTRは、9月18日に米国商工会議所のTPPに関するシンポジウムで、「日米間で非常に難しい問題があるが、自動車、金融、医療分野では終えている(We did it)」という発言をしていたことが注目されます。
一方、日本経済新聞によると、甘利大臣は24日夕方の記者会見で「米国以外の国との交渉を加速させることで貢献していく」という発言にとどめており、年内合意の目処が立たない状態になったと伝えられています。
なお、TPP諸国は、11月のAPEC首脳会議での交渉妥結を目指して、10月中ごろにオーストラリアのキャンベラで首席交渉官会議を開き、10月25日からシドニーで貿易大臣会合で最後の詰めを行うスケジュールを期待していたところのようですが、その開催についても不明確な状況となっています。


<参考リンク>
TPP Negotiators Make Important Progress on Agreement(USTR、英語)
Remarks By Ambassador Michael Froman at the U.S. Chamber of Commerce and Center for Strategic and International Studies Symposium on the TPP(USTR、英語)
TPP日米閣僚協議物別れ 甘利氏「議論かみ合わず」(日本経済新聞)
TPP、豪で閣僚会合=25-27日軸に調整(時事通信)
 

(文責:西野俊一郎)

 

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