海外農林業情報 No.19(2013 年2月21日)
米国・EU 間の「大西洋貿易および投資パートナーシップ」に係る交渉について
米・EU 間の「成長と雇用」に関するハイレベル・ワーキンググループ(HLWG)は、2011 年11 月の米・EU の首脳会議の合意に基づき、貿易投資の増大を図る政策および方法を明確にするため、カーク米国通商代表部代表および欧州委員会貿易担当デフフト委員を共同議長として検討を進めてきました。この最終報告書が2月11 日に提出され、これを受けて2月13 日には、オバマ大統領とファンロンパイEU 大統領による共同声明として、「大西洋貿易および投資パートナーシップの交渉を開始するために必要な、それぞれの国内手続をとることにした」との発表がありました。
米国の手続きでは交渉に入る90 日前までに議会に申告することとされており、また、EUでも閣僚理事会の承認を得る手続きを必要とするため、交渉開始はその後になると思われます。
累次、本紙でお伝えしてきたとおり、最終報告では、広い範囲に亘る貿易と投資に関する自由化、規則の共通化および国際的ルール作りに対する取組みを包括的に合意すること(comprehensive agreement)を勧告しています。
合意の構成としては、1)市場アクセス、2)規則および非関税障壁問題、3)国際的な貿易システムに適用されうるルール問題の3分野に分けられています。
1)市場アクセス:2国間の関税を全て撤廃することを目標としつつ、センシティブな関税問題についてはできるだけ短期間のうちに徐々に廃止し、さらに、最もセンシティブな生産品についての取り扱いでは特別扱いも検討するとしています。サービスについては、これまでに米国とEU がそれぞれ他国と結んだ協定中で最も高いレベルの自由化を求める一方で、センシティブな分野に配慮し、一部例外を認めるなど新しい自由化を模索するとしています。投資については、それぞれ他国と交渉してきた協定のうち最も高いレベルでの自由化と保護を協定に盛り込むべきとするようです。政府調達については、実質的な調達に係るアクセス改善を州政府も含めた全てのレベルで行うとされています。
2)規則および非関税貿易障壁:新しい方式として、WTO の協定を超える規律としてSPS(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)プラスおよびTBT(貿易の技術的障害に関する協定)プラスを交渉するとし、更に、規則の相互性および透明性に関しての横断的な規則の共通化を推進するとされています。
3)国際的な貿易システムに適用されうるルール問題:知的所有権、環境と労働、更には税関規則、競争規則(独占禁止法関連)、政府企業、地理的表示(Geographical Indication、GI)、原料とエネルギーの輸出規制問題、中小企業問題、透明性の問題等における国際的ルールを構築するとされています。
これまで本紙でお伝えしてきたとおり、米・EU 間の交渉には、農業でのSPS 問題、GI、政府調達において難しい問題を含んでおり、妥結には時間がかかることが予想されています。これらの問題については、新しい解決策を求めるとしており、全体をひとつのパッケージ(single undertaking)で交渉を進める一方で、一部については後回しとする可能性があります。
参考リンク
・HLWG 最終報告書(USTR、英語)
・米・EU 両大統領による共同声明(ホワイトハウス、英語)
(文責:西野 俊一郎)
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