海外農林業情報 No.25(2013 年12 月12 日)
FAOによる栄養不足人口推定手法の改訂
FAOは毎年、「世界の食料不安の現状(The State of Food Insecurity in the World)」において、世界の栄養不足人口の推計値を公表しています。この数値の推定方法が、2012年報告から改訂されました。従来よりFAOは、推計値の参照は各年次報告内で行い、他年次の報告と比較しないよう注意を促してはいますが、2012年報告では改定内容および影響を具体的に示しています。この変更により、基準年(1990-92年)の栄養不足人口が大幅に上昇したことから、栄養不足人口についての推計値を扱う場合には今後注意が必要と考えられます。これを受けて、本号では推計方法がどのように改訂されたのかをご紹介します。
1. 統計データの変更
今回の栄養不足人口推計値は、推計の基となる各種統計データおよび推定方法が大幅に変更されています。統計データについては、各国における(1)人口規模、(2)身長およびエネルギー必要量、(3))食料供給量に(4)食料ロスが加わる形で、最新の値に見直されました。
このうち人口規模については、最新の世界人口推定の改訂版「World Population Prospect: The 2012 Revision」のデータに基づき、例えば1990年代において中国が2,500万人上方修正、バングラデシュでは1,700万人が下方修正されるなど、全体的に修正されています。この結果、栄養不足人口推計値は1990-92年では2.8%の増加、2009年では1.4%の減少となっています。
食事エネルギー最低必要量の推計に用いられている性別および年齢別の平均身長データについては、これまで身長データが得られず近隣国と同等としていた国々の数値が、USAIDの人口統計に基づき更新されました。その結果、食事エネルギー最低必要量も再推計され、栄養不足人口推計値も従来より全体的に3%程度減少することとなりました。
食料供給量は、エネルギー入手可能量の推定に必要とされるもので、FAO統計部が公表した新しい統計に基づき、栄養不足人口は1990-92年で1.5%増、2009年で8%の減少となっています。
さらに、これまで栄養不足人口に影響を与えていると認識されつつも、信頼できる推計値が無かったために反映されていなかった食料ロス(消費者の手元に届くまでに失われる食料)も今回から反映されています。食料ロスに関するFAOの研究で得られたデータに基づき、食料需給表の各項目に適用した結果、1990-92年の栄養不足人口は13.2%、2009年で16.4%と増加し、今回の改訂で最も劇的な変化をもたらしました。
2. 推定方法の変更
統計データの変更に加えて、今回の推計では栄養不足人口を推計するために必要な母集団の食料エネルギー消費の分布モデルが変更されています。食料エネルギー消費の分布はこれまでは対数正規分布によって推計されていましたが、これでは所得の高い階層の食料支出比率が所得の増加に伴って下がる傾向が適切に反映されないことから、家計費調査による食料支出の分散を取り入れ、より柔軟性のあるモデルとして、非対称正規分布が用いられています。これによって栄養不足人口は1990-92年で2.3%増加し、2009年で3.8%の減少となっています。
以上のデータ更新および推定法の変更から、開発途上地域における栄養不足人口は、従来の推計では1990-92年の8億3300万人から2008-10年の8億5600万人へと若干の上昇傾向であったものが、2012年報告値では1990-92年の9億8,000万人から2010-12年の8億5200万人と、約13%減少していると結論付けています。詳しくは「世界の食料不安の現状 2012年報告」を参照ください。
図1:データ更新および推定方法の変更が栄養不足人口推計値に与えた影響
出典:FAO「世界の食料不安の現状 2012年報告」(公社)国際農林業協働協会、2012年
<参考リンク>
1.「世界の食料不安の現状 2012年報告:経済成長は飢餓と栄養失調の消滅を加速するために必要である--しかしそれだけでは十分ではない」
(文責:西野俊一郎)
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