『海外農林業情報』No.48

海外農林業情報 No.48 (2015年9月25日
 

2015/16年度の穀物需給を確定することとなる世界農業食料需給見通しについて
9月11日に、米国における農業生産事情の最後の見通しを踏まえ、2015/16年度の穀物需給を確定することとなるUSDAの世界農業食料需給見通し(WASDE)が発表されました。主な内容は次のとおりです。

1.コムギ
EUとFSU(旧ソビエト連邦)の生産増により、コムギの供給は6.7百万トン増加し、世界全体で73億1600万トンと見込まれ、3年連続の記録的生産となっています。世界の需要は、特に欧州、ロシア、フィリピンでの飼料用の増大で、1600万トン増加すると見込まれています。

2.粗粒穀物
米国での今月のトウモロコシ生産見通しが前月予想より低くなったこともあり、2015/16年度の供給は前回発表より減少すると見られていますが、世界経済の動向もあってシカゴのトウモロコシ価格はそれ程高騰しなかったようです。米国のトウモロコシ供給量は減少しますが、輸出需要には十分と見られています(国内でのエタノール用などの減少かと思われます)。
世界の2015/16年度における粗粒穀物については、トウモロコシが750万トンの減少見込みにも拘らずオオムギの生産増によって、全体としては230万トンのみの減少と見込まれています。トウモロコシの生産は、EUで430万トンもの減少が見込まれ、更に今月の米国の生産見通しが低かった事が主たる理由です。世界全体でのトウモロコシの消費は、米国での飼料とその他(油等)の利用量減少等から、230万トンの減少と見込まれています。他方、ウクライナの輸出量拡大と100万トンものブラジルの輸出量拡大があります。

3.コメ
米国のコメ生産量は、天候の影響による単収の低下と収穫面積の縮小のため、先月の見通しより更に減少し、1490万cwt(1cwtは約45kg)と見られています。世界のコメ生産量は、ミャンマー、中国、エジプト、インドおよびフィリピンの生産見通しが低くなったため、先月の見通しから290万トン低くなる4億7580万トンと見込まれています。 2009/10年度以来、初めて全体としての生産減が見込まれています。ミャンマーの生産減は7?8月における広範囲の洪水が主な原因とされています。中国は政府発表の訂正によるものとされ、エジプトの生産減は酷暑によるものと見られています。また、インドネシアとフィリピンは収量見通しの調整によるものと見られています。一方、インドは230万トンの増産が見込まれています。

4.油糧種子
米国のダイス生産量については収量増が見込まれ、1900万ブッシェル(1ブッシェルは約25.4kg)増え、39億8500万ブッシェルと見込まれています。世界の油糧種子については、先月より190万トン少ない5億2720万トンと見られています。ダイズについては、ウクライナの8月の乾燥気候で単収が低下するとともに、カナダでも単収が減少していることもあるようです。
ヒマワリの生産も、中国やEU等での生産減が見込まれています。ナタネについては、カナダとEUで増産があり、トルコとインドの減産を相殺しています。インドではピーナッツの生産減も見込まれているようです。


世界食料白書2014年報告の主要メッセージ
世界食料農業白書2014年報告「The State of Food and Agriculture 2014」の日本語翻訳版が発行されました。今回の特集は、家族農業における技術革新の問題についてであり、その主要メッセージは次のとおりです。

(1) 家族農業は、食料安全保障と持続可能な農業開発を達成する解決策の一部である。世界の食料安全保障と環境の持続可能性は、ほとんどの国の農業の屋台骨を支えている5億世帯以上の家族農家の手に委ねられている。
(2) 家族農家は極めて多様な集団で構成されているため、イノベーション・システムはこの多様性を考慮に入れなければならない。
(3) 農業が直面する課題や農業革新を促す制度面の環境は、かつてないほど複雑化している。世界はこの複雑さを取り込むイノベーション・システムを構築する必要がある。
(4) 持続可能な増産や単収と労働生産性のギャップの是正を進めるために、農業研究開発や農業普及サービス、助言サービスなどへの公的投資をより強化すべきである。
(5) すべての家族農家は、優れたガバナンス、安定したマクロ経済状況、透明性の高い法体制や規制制度、保証された財政権、リスク管理手段、市場インフラなど、革新を可能にする環境を必要としている。


<参考リンク>
World Agricultural Supply and Demand Estimates Report (WASDE)(USDA、英語)

 

( 文責:西野 俊一郎)

 

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