『海外農林業情報』No.55

海外農林業情報 No.55 (2016年2月19日


TPP協定の署名式について

TPP協定は、昨年10月に大筋合意ができ、12月には協定文書が完成し、今年2月4日にニュージーランドで署名式が行われました。今後は、各国でそれぞれの批准手続きが行われ、6ヵ国以上、域内GDP総額の85%以上を占める国の批准が終了し、署名の日から2年を経過したときから発効することとなっています。GDP総額では、米国が60%、日本が18%を占めますので、両国の批准が必須となっています。

米国では、労働組合等が協定全体に反対の意向を示していることに加え、生物製剤のデータ保護期間が最長8年となっていること(国内法では12年)、たばこ規制措置について企業から当該政府を直接提訴できる制度から除外していること、金融サービス分野でデータのサーバーが外国にあることを認めること(在米の外国銀行等のデータが米国以外で管理されることとなることに米国財務省が懸念を表明)等が問題とされており、これらに関して再交渉すべし等の意見も出ており、議会の批准手続きに懸念が出ています。議会では、政府の国際貿易委員会からの影響調査報告を受けた後に審議に入ることとなっていますが、その報告が5月下旬となっていることに加え、今年11月の大統領選挙に向けての党内予備選挙がたけなわとなる時期でもあり、上院の担当委員会である財務委員長は大統領選挙以前には審議に入れないであろうとの予測を立てています。従って、オバマ大統領の任期中に批准手続きを終えられるかどうか不透明な状況となっています。

日本については、農産物の関税が注目されました。総ての品目の関税を一定期間内に撤廃することが原則ですが、日本の農産物に関しては、5品目(コメ、麦、砂糖・でんぷん、牛豚肉、乳製品)が例外品目とされ、それぞれごとに、引き下げ率、関税割当等によるアクセス拡大が合意されております。

農産物に関する品目ごとの影響は、完全関税撤廃の際は3兆円と言われていましたが、交渉結果を踏まえて、農水省から約900億円から1500億円(年間)になったとの推計が公表されております。生産量の減少はほとんどなく、主な影響は価格の低下によるものとなっています。また、ほとんどが畜産物で、牛肉が300億から600億、豚肉が170億から330億、乳製品が200億から290億となっております。

これらの影響への対策として、圃場の大区画化、効率生産の推進等の施策のほか、価格対策の充実が考えられているようです。それらの関連予算、法案が今国会に提出され、条約批准の承認が求められることになります。このうち、効率生産等TPPに備えて進めるべき新しい農政の施策に関する予算は、すでに27年度補正予算として約3000億円が計上され、国会の承認を終えています。今年は、夏の参議院選挙を控え、国会の会期延長が難しい情勢にありますが、TPPは政府の優先課題でもあり、今国会での批准承認が目指されるようです。

<参考リンク>

TPP関連情報農林水産省

大筋合意の内容農林水産省

農林水産物の生産額への影響について農林水産省) 

品目ごとの農林水産物への影響について農林水産省

平成27年度農林水産関係補正予算の概要農林水産省

( 文責:西野 俊一郎)

 

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