『海外農林業情報』No.72

海外農林業情報 No.72 (2017年6月15日


FAO世界食料需給見通し

国連食糧農業機関(FAO)は6月8日、世界の農産物の需給見通し『Food Outlook』を発表しました。このうち、小麦、粗粒穀物、コメ、油糧種子については次の通りとなっています。穀物全体としては、予想される生産レベルを需要がわずかに下回ることから、2017/18年度の需給状況は良好で、世界の在庫も記録的な水準となっています。油糧種子についても、安定した傾向と見通されています。

・小麦
2017年の世界の小麦生産は昨年の記録的な水準からは減少するものの、繰越し在庫が豊富にあることから、2017/18年度は十分な供給があるものとみられます。2017年の小麦生産は7億4,300万トンと見込まれ、記録的な水準だった2016年を2.2%下回る程度とみられます。これは、北米、ロシア、オーストラリアでの減産予想によるものですが、EUと北アフリカでの生産回復が、さらなる減少に歯止めをかけています。
小麦の減産と粗粒穀物の供給量増加が要因となって小麦の飼料利用が減り、2017/18年度の世界の小麦利用全体は減少すると見込まれます。このような2017/18年度の需給見通しから、2018年度末の世界の小麦在庫はすでに高水準となっている期首よりも4%(1,000万トン)増加し、過去最高となる2億5,700万トンに達すると予想されています。

・粗粒穀物
2017年の世界の粗粒穀物生産は13億4,800万トンと、過去最高水準に近く、昨年のピーク時に並ぶ水準になるものと予想されます。これは南米および南部アフリカでトウモロコシ生産が回復するとの予想に基づくものです。
 2017/18年度の粗粒穀物利用は2016/17年度を0.8%(1,100万トン)上回り、過去最高となる13億5,000万トンに達すると予想されます。粗粒穀物の飼料向け利用は1.5%の増加が見込まれますが、これは中国での2%増と、EUおよび南米での増加によるものです。

・コメ
 重要な北半球のコメ生産国では、2017年の作期が始まったばかりですが、現時点での世界のコメ生産見通しは2016年を上回り、5億260万トンに達すると予想されます。アジアと西アフリカで、コメセクターへの政府支援に大きな後退がなければ、さらなる生産拡大につながるものと予想されます。これに、南米とオーストラリアでの回復が加われば、米国、エジプト、EUにおける価格に起因する減産や、東・南アフリカにおける天候による減産を十分に補うとみられます。
 2017/18年度の世界のコメ生産は利用と同じペースで増加し、その結果、世界のコメ在庫は期首に近い水準を保つと見込まれます。コメの主要輸出国タイでは、政府の在庫調整の取り組みにより、在庫減少に向かっていますが、コメ輸入国、特に中国(本土)での在庫積み増しによって全体の在庫は維持されるとみられます。

・油糧種子
2016/17年度(10月/9月)の油糧種子および油糧作物製品の需給は、緩和方向に向かっています。単位面積当たりの収量がきわめて大きかったことから、2016/17年度の世界の油糧種子生産は過去最高水準になるとみられます。増加の大部分は、大豆の主要生産国での良好な生育状況が生産を押し上げたことによるものです。
2017年10月に始まる2017/18年度の暫定予想では、この在庫増に加えて、世界の油糧種子生産が前シーズンと同水準になると予想しており、油脂の需給バランスはさらに緩和し、油かす市場も引き続き十分な供給があるため、価格も今後数ヵ月は現在の比較的低いレベルで安定するものと予想されています。


米国農務省による農産物需給見通し

米国農務省(USDA)も、6月9日に世界の農産物需給見通しを発表しました。このうち、小麦、粗粒穀物、コメ、油糧作物の見通しは次の通りです。

・小麦
2017/18年度の米国の小麦生産はわずかに増加し、380万ブッシェル(小麦の場合1ブッシェル=27.2kg)増の18億2,400万トンに達すると予想されます。
世界の小麦供給は280万トンの増加が見込まれますが、これは主にロシアで予想される生産増(200万トン増の6,900万トン)によるものです。トルコでも、今春の作物状況が改善したことから生産増が見込まれ、50万トン増の1,800万トンに達すると予想されます。インドの小麦生産は100万トン減少し9,600万トンになると見込まれますが、それでも記録的な水準で、2016/17年度を900万トン上回っています。EUの小麦生産は、ドイツで若干の減産が見込まれることから、全体としてやや減少し1億5,080万トンになるとみられますが、それでも昨年の水準を4%上回っています。

・粗粒穀物
 2017/18年度の米国のトウモコロシ生産は、今のところ昨年と変わらず、140億6,500万ブッシェル(トウモコロシの場合1ブッシェル=25.4kg)と見込まれます。USDAは6月30日に、新たな調査により、トウモロコシの作付面積と収穫予想面積を発表する予定です。これにより、生産見通しが修正される可能性があります。5月の作付面積は前年より減を示しており、また、5月末の中西部の湿潤な気候により、トウモロコシから大豆への作付け変換も予想され、相当の作付け減が見込まれます。
またEUでは、フランスとドイツでの作付面積が予想を下回ったことから、全体としてのトウモロコシ生産は減少が予想されます。カナダでは、オンタリオ州およびケベック州で5月の気候が湿潤だったことから、トウモロコシの作付けが遅れ単収が減少し、生産も減少すると見込まれます。他方ブラジルでは、5月に中西部での降雨量が多かったことから単収予想が引き上げられました。南部アフリカのトウモロコシ生産も、政府による最新の推定では、増加しております。

・コメ
米国の作付面積は、今春の作付け時期における中南部およびカリフォルニア州での天候不順にもかかわらず、260万エーカーを維持しています。
世界のコメ供給は、2016/17年度および2017/18年度とも増加が見込まれています。最も変化が大きいのはインドで、2016/17年度に150万トン増の1億800万トンに達すると見込まれています。一部地域では、減産もありますが、世界のコメ生産は過去2番目に高い水準になるとみられます。

・油糧種子
 2017/18年度の世界の油糧種子に関する見通しは、生産・在庫ともに増加することを示しています。2016/17年度は、ブラジルとアルゼンチンでの大豆の生産増があり、世界の大豆生産は330万トン増の3億5,130万トンに達するとみられます。ブラジルの大豆生産は、直近の収穫地での好天による収量増を反映して、240万トン増の1億1,400万トンになると予想されます。2016/17年度の生産増により、2017/18年度の期首在庫は310万トン増加して9,320万トンになると予想されます。さらに、米国内の大豆の作付け増が見込まれ、2017/18年度の生産が増加するものと予想され、最近の市場価格の低下を招いています。


<参考リンク>
Food Outlook, June 2016(FAO、英語)
World Agricultural Supply and Demand Estimates (USDA、6/9付、英語)
 

   ( 文責:森 麻衣子)

 

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海外農林業情報 No.67 (2016年12月22日)


日EU間のEPAの動き
日EU間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)は、2013年3月の首脳間合意により開始されました。これは、関税撤廃や投資ルールの整備等を通じて貿易・投資を活性化することを目指して、日本にとってはTPPと並ぶ、EUにとっては米国と交渉中のTTIPと並ぶ「メガFTA」の一つとなることを目指したものです。

交渉は、2014年4月には物品の関税引下げオファーが、さらに7月には投資、サービス分野の自由化のオファーが交換され、本格化されました。しかしながら、交渉分野としても、物品、サービス、知的所有権、政府調達、投資ルール、非関税障壁ということで、TPPより範囲が限られており、また、日本側としては、TPP交渉が先行しており、この枠を出ない対応にならざるを得ない状況となっていたと思われます。また、交渉は、交渉官レベルで積み重ねられており、双方とも具体的な内容を公表しないということで不透明なところがありますが、EU側の関心は、チーズ、豚肉、ワインの市場アクセス改善と地理的表示(GI)の保護、地方公共団体・鉄道の調達(政府調達)の拡大、自動車、加工食品、医薬品等の基準認証に関する非関税措置、日本側の関心は、EUの工業品の関税撤廃、特に自動車の10%関税、電子機器の14%関税の撤廃、日本側の投資企業に対する欧州側の規制問題等で、これらに集中して交渉が行われたようです。

双方は、2016年中の合意を目指していましたが、12月12日から16日までの交渉会議で終着点が見出せず、再度来年1月に会合を持つこととなったと発表されました。EU側の記者会見によれば、残る重要問題は、日本のチーズ、豚肉の市場アクセスとEUの工業品の関税だったようです。EU側は、日本のチーズ、豚肉問題の対応によって自動車、電子機器の関税引き下げに応ずる準備はあるとのことで、また、EU側交渉官によれば、豚肉では、「前進があった」とされています。双方とも、グローバリゼーションのモメンタムを維持するためにも、何とか米国のトランプ大統領の就任式(1月20日)前に決着を図りたい意向があるようで、1月の交渉、その直後にでも閣僚交渉を行っていく構えのようです。もし、この機会を失するとフランス、ドイツの選挙、3月には、英国離脱の通告が予想されているため、これも漂流せざるを得なくなるのではないかと言われています。

<参考リンク>
経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(外務省ホームページ)
年内の大枠合意難しく(日本経済新聞、12月17日朝刊)
日欧EPAに時間の壁(日本経済新聞、12月18日朝刊)
日欧EPA年内大枠合意見送り(日本農業新聞、12月18日)

 

( 文責:森 麻衣子)

 

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